福岡県青少年保護育成条例事件とは?分かりやすく判例解説【過度広範性と明確性】

・司法試験受験生
・国家公務員試験受験生
・行政書士試験受験生

こういった法律資格試験受験生の方に向けて書いています。

福岡県青少年保護育成条例は、憲法の論点でも理解がむずかしい「過度広範性」と「明確性」の論点です。

福岡県青少年保護育成条例事件はどんな判例?

16歳の少女とホテルで性交した人が起訴された事件です。

この2人は、ドライブして、車中での性交をはじめ「15回ほど」していたとのこと

これが条例の「淫行」に当たるとして、有罪になりましたんで、淫行が何かわからないから条例は憲法違反である!
と主張して、最高裁まで争っています。

お互いがどれほどの仲だったのか、強制性があったのかはわかりません。

以前、岐阜県青少年保護育成条例事件について書いたんですが、名前が似ててよく間違えます

こちらの判例も、憲法の「合憲限定解釈の事例」でもあるので、あわせて理解を深めておくと良いです

福岡県青少年保護育成条例のいったい何が憲法違反か?

じつは、「淫行」って、どんな行為なのか?ってのは、明らかになっていないとダメです

条例も刑罰が予定されているので、刑法と同じく、構成要件がハッキリしている必要があるのです。

そこには、「どんな行為が淫行なのかわからない」あるいは、「淫行一般をすべて処罰するのでは、処罰範囲が広がりすぎる

このふたつの視点があるわけです。

条例にも適正手続の原則が及ぶ

条例には刑罰があります。何が犯罪で刑罰を科せられるのか?法律で明確に定められていなければなりません。

これを「罪刑法定主義」といいます。

理由は、憲法31条によって、法律が適正に定められることを保障し、淫行という行為が明確に分からないとこうした手続きをきちんと踏んでいないとされます

したがって、「淫行」が、不明確あるいは処罰範囲が広いと、適正な手続きを求める憲法に反することになります。

なぜ、憲法は明確な法令を求めるのか?

それは、私たちの「自由な行動に対する萎縮効果」が理由。

自由な行動が保障されてなければ、生活が難しくなっていきます

Twitterとかも同じで悪口が処罰されるとなれば、「ではどのラインまでセーフなの?」という問題点にぶつかります。

それが分からなくなると、論評、批判は不可能になっていくというわけです

このように、法令の内容が不明確であることは「漠然不明確性」といいます

「法文が私人のいかなる行為を犯罪として処罰するのか明らかでない」という意味

これに対して、法の意味が広がり処罰範囲が不当に拡大することを「過度の広範性」といいます

※一応、区別されてるんですがどっちに当たるか?は、けっこう微妙です

福岡県青少年保護育成条例事件の判決で示された「淫行」とは?

判例いわく

「淫行とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものではなく、青少年を誘惑し威迫、欺罔又は困惑させるなど

その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか

青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうもの」

としました。

このポイントというのは、単に、淫行一般をさすのではないこと。

「自己の性的欲望を満足させるための対象として扱うような行為」に限定していることです

こういうのを「限定解釈」と言って、条例をそのまま生かしておくために違憲となるのを避ける「憲法判断の技術」です。

この限定によって、婚約中であるとか、真摯な交際関係における(淫らな?)行為を除外することができます。

こうした解釈をすることは、「通常の判断能力を有する一般人の理解にかなう」としており徳島県公安条例事件(最大判昭和50.9.10)の基準を踏まえていることがうかがわれます

解釈基準を一般人としていますが、本事例への認定はとくに検討すること無しに認定してるんですけどね…

皆さまも思ったかもしれませんが、結局、抽象的じゃないか!という点は、学説でも批判されています(しかたない…)

もし、淫行の範囲が明確になるんだったら、どこからが浮気?なんて不毛な質問だってとっくの昔になくなってるはずです…