【警察官エンジンキー引抜き】職務質問と有形力行使【判例の解説】

今回の参考判例は、こちら (最決平6.9.16)

警察が職質の際にエンジンキーを取り上げたという事案です。

警察は、職質をすることができますが、その際、相手を停止させることが認められています。( 警察官職務執行法2条1項)

警察官がエンジンキー引き抜きは適法だが「事例判断」

被告人に対する職務質問に際して、エンジンキーを取り上げその現場への留め置きしたという、一連の手続の違法性について判断したものです。

この判例で、「エンジンキーを取り上げる行為は適法」と覚えているかと思います。

が、かならずしもそういうわけではありません。なぜなら、事例判断だからです。(判例の認定も怪しいです)

この事案において、何がポイントかというと、

・現場が、12月26日の福島県(麻耶郡というかなり山の方っぽい)。

・雪が積もっており、周辺の道路も滑りやすくなってた。

・そして、任意同行をかたくなに拒否し続けていた。

・警察は、車に鍵をかけさせるためエンジンキーをいったん被告人に手渡したが、被告人が車に乗り込もうとしてこれを阻止したという経緯。

こうした事実を理由として、職務質問を行うために停止させる方法がどうしても必要だったことを認定しています

といっても実際には、現場まで車を走らせていますし、滑りやすいのは当然で停止させなければならない必要性とは関係がないです。

そもそも、車を発信させることが自由なので嫌疑に関わるものでなく詭弁で、道路の積雪で滑りやすく危険であることは、停止させる必要性にはならないです。(一応の理由付けをしていることは大事ですが。)

このような具体的な事実の上で、必要性を認めているだけです

エンジンキーを引き抜く行為それ自体では、行動の自由を妨げられ、排他的に支配されることとなりますので違法に傾くべきで、安易な適法の認定は難しいと考えられます

本来はもう少し詳しい検討が望ましい。

たしかに、被告人に幻覚症状があり、道が滑りやすく急な運転操作を誤り危険があるということは不可能ではないところなのですが、このキーを取り上げた時点とは、職務質問を開始した段階です。

怪しい挙動はあるものの、幻覚をみていることなどをうかがわせる事情が推認できず、覚せい剤使用の嫌疑があるとまでいえません。

判例ではしれっと、キーを取り上げたことと返さなかったことを一体としていますし、また、幻覚症状があったことを認定していますが、具体的な事実がありません。

そもそも、キーを引き抜いた後6時間半もの間、留めおき職質をする中で発生した押し問答でのできごとを後付けしています。

一応、道路交通法の交通の危険防止を引っ張ってきてはいますが

職務質問を断り、そのまま自動車を発信させるためにともなう危険であるから、職務質問を控えればよく、停止させる必要性という理由にはなりません。

実際とは異なるかと思いますが、これくらい慎重な認定が必要です。

例判断の結論は正確に

判例の結論としては

エンジンキーを引き抜き、返還しなかった行為は必要最小限であると認定しています。

いろいろ事実を引っ張り、道路交通法も持ち出し、一応の理由付けをした上で、「本件の場合には停止させるため必要だ」というようにけっこうギリギリで認定している判例です。

やはり行動の自由を制限するので、慎重に検討すべきところかと思います。くれぐれも雑な認定で「停止させる必要が認められ適法」という結論を導かないようにお気をつけください…。