本判決は、私人間における民法の争点です
もっとも、その中で「前科を公表されない利益」が認められるのか?
という点で、人格権と表現の自由の衝突の場面と考えられます。
ノンフィクション事件の事案とは
原告は、沖縄で傷害致死事件を起こしていました
本土では報道されず、就職、結婚もしたのですが、会社も妻も周囲に前科を知るものはいませんでした。
ところが、この事件の陪審をしていた者が、逆転というノンフィクション事件として実名表記などで書き、
この本が高い評価を受け公表されてしまったことから損害賠償請求をしたというものです。
前科を公表されない利益は認められるか?
まず、前科を公表されない利益は、法的保護に値します。
判例では、こういわれます
「一市民として社会復帰が期待されるので、事実の公表によって社会生活を害されない利益を有する。」
実名での前科の公表は、許されるか?
それでは、前科等の「実名公表」が不法行為となるのか?
このところが争点になります
ここで前科の公表が許される場合は3つあるといいます。
・社会的な意義がある場合
・社会的影響力のある者の活動に対する批判のため一資料とするような場合
・選挙の候補者などでその適否を判断するような場合
主に公益に求められるようですね。
ノンフィクション基準では、公表されない利益があるのと同時に、公表が許される場合もあるため、事件の社会的な意義や当事者の重要性などから判断することとされます。
「事実の公表よりも、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越する場合、不法行為となる」
考慮されるのは、その後の前科者の生活状況のみならずさまざまな事情を考慮します
具体的にはこちら
・事件の歴史的意義
・当事者の重要性
・その者の社会的活動、影響力
・公表した著作物の目的
・実名使用の必要性
としています。
結局、本件の結論はというと、
事件から刊行までは12年ほど経っていましたし、原告は、無名の一市民として生活していましたので
実名を使わなければならない理由もなく、不法行為が成立しました。
今回は以上です。ありがとうございました。