練馬事件とは?刑事系論点の概観

練馬事件(大法廷判決最大判昭和33.5.28)は

刑法・刑訴法ではおなじみですが、刑事上、非常に重要な判例で、さまざまな論点を判断したもの。

いろいろな論点が隠れていて、整理するのに最適な判例です。

刑事事件判例は明確な理由付けをしていませんが自分の頭で考える練習をまとめてできる良い素材です。

練馬事件における論点とは?

練馬事件ではいくつか論点がありますが

以下となっています

1 いわゆる共謀共同正犯の成立要件

2 実行行為に関与しない共謀者の刑責と憲法第31条

3 「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」であるか

4 共謀の判示方法

5 憲法第38条第2項の法意

6 憲法第38条第3項の法意

7 被告人本人との関係における共犯者の犯罪事実に関する供述と、憲法第38条第3項にいわゆる「本人の自白」

8 数人間の順次の共謀と共謀共同正犯の成立

1.共謀共同正犯の成立要件とは?

共同正犯というのは、共同実行が必要ですので、実行行為を行う場合に成立するはずです。

共同実行がない者は教唆犯か従犯となるのですが、現実にはそれらより強い共同正犯と同じではないかということもあり得ます。

このように共同実行がないだけで共同正犯と同じような場合を、共謀共同正犯といいます

練馬事件判例によれば、いわゆる「共謀共同正犯」が成立に必要なものは以下です

※(条文には出てこないためいわゆる)

二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって、犯罪を実行した事実が存在しなければならない。

そして、謀議の内容として、「互いに他人の行為を利用し実行に移そうとすること」を求めています。

これは、学説はいろいろありますが、判例の意識として、共同正犯と教唆犯・従犯との区別をしたいということがあるからです

犯罪へ向かう意思の強さは、【意思の連絡 < 共謀】 みたいになります。

共同正犯の場合、意思の連絡があれば十分です。

なぜなら、実行行為があるからその人が犯罪を実行する意思は読み取れます。というか実行しちゃってますからね

これに対して、たとえば、犯罪計画をたてたなど、意思の連絡はあるけれど、実行は何もないと、犯罪を実行する意思はないとも思えます。

会議に居るだけ、という人がよくいることからも頷けるでしょう。

そのため、意思の連絡よりもう少し強い犯罪に対する意思を読み取りたいというところです。

これを正犯意思(自らが犯罪を実行する意思)として、判例は要件としては、「共謀」という文言に含めているわけです。

2.共謀共同正犯としての処罰は31条の手続き違反にならないか?

「共謀共同正犯成立に必要な共謀に参加した事実が認められる以上、憲法第31条に違反しない」

直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味において、共同正犯の刑責を負いますので、手続きに反しないと解することも憲法上問題はないとのことです。

共謀に参加している以上、共同正犯とされます。

自己の行為に利用するという点に帰責性を認めていく考え方ですので、無関係というわけにいかず適正手続きにも反しないということができます。

3.共謀は罪となるべき事実に当たるか?

「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないため、「厳格な証明」によらなければならない

「共謀」が要件になることがわかります。

4.共謀は具体的に明示しなければならないか?

共謀は実際どのように立証すればいいでしょうか。

謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についてまで、いちいち具体的に判示することを要しない

共謀の範囲はわりと曖昧になり得ますので、具体的にすべき要請もありつつ、具体的に示すことが難しい現実もあります。

といっても、結局は被告人の防御に不利となるか?といった観点から判断していくのであまり問題ではないかもしれません。

5.38条2項は何を定めた規定か?

憲法38条2項はこちら

憲法第38条
② 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

憲法第38条第2項は、強制、拷問若しくは脅迫による自白または不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白の証拠能力を否定したものであると読み取れます

6.38条3項は、何を定めた規定か?

憲法第38条
③ 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

憲法第38条第3項の規定は、自白の証明力に対する自由心証を制限し、その証明力を補充しまたは強化すべき他の証拠を要することを規定したものである

このように、いわゆる補強証拠を必要と規定しているものということです。

被告人本人の自白の証拠能力を否定または制限したものではなく、被告人本人を処罰するには、自白以外の証拠が必要になることが憲法の法意です。

証明力は、証拠の価値で、本来、証拠にどんな価値があるのかは、裁判官が自由に評価できます。

しかし、自白という証拠だけは、自由な評価を制限するために「有罪認定はできない」とされています。

7.共犯者の供述が「本人の自白」に当たるか?

共犯者も、共同被告人であっても、被告人本人との関係においては、被告人以外の者である。
そのため、共犯者または共同被告人の犯罪事実に関する供述は、証拠能力を有しないものでない限り、独立・完全な証明力を有し、「本人の自白」(憲法38条3項)に当たらない。

共同審理を受けていない単なる共犯者は勿論、共同審理を受けている共犯者であっても、このような共犯者または共同被告人の犯罪事実に関する供述は、有罪認定に用いることができるとしています。

(この理由は単純に、別人であると言っているだけですが)

8.順次共謀した場合も、共謀が成立したといえるか?

同一の犯罪について、数人の間の順次共謀が行われた場合は、これらの者のすべての間に当該犯行の共謀が行われたものと解すことを相当とする。
数人の間に共謀共同正犯が成立するためには、その数人が同一場所に会し、その数人の間に一個の共謀の成立することを必要とするものではない。

ここでは順次共謀であっても、共謀を認めていてそのプロセスは問わないとしています。

はい、このように多くの論点がありました。それだけ重要な判例というわけでしょうか。

以上になります。お読みいただきありがとうございました