毒樹の果実とは?違法性の承継との違い【違法収集証拠排除法則】

今回は、刑事訴訟法における証拠能力についてまとめていきます。

「供述証拠」の証拠能力は、自白法則によって否定されます。

それでは、「非供述証拠」の証拠能力はどのようにして否定されるでしょうか?

これが今回の問題です。

これについては、以下のように刑事訴訟においては3つの理論(とされているもの)があります。

・ 違法収集証拠排除法則

・ 毒樹の果実(の法理)

・ 違法性の承継(の法理)

このうち、原則形態は、「排除法則」です。

なぜ、証拠能力は否定されるべきか?

これは、違法捜査を抑止するためであると言えます。

一度でも認めてしまえばそのままなおざりになるからです。

国民の信頼のため司法の廉潔性を守り、将来の違法捜査を抑止する必要があり、違法な手続きに基づく証拠の証拠能力は否定するべきである。

もっとも、犯罪も悪質、巧妙な手口が多いので、潔癖すぎるのでは犯罪を食い止められないという側面があるのも事実です。

一定程度は認めるべきなのですが、基準を明確にすることは不可能なので、とりあえず、法的には令状主義を根拠としておきます。

些細な違法も一律に排除するのでは真実発見が著しく困難となるため、令状主義の精神を没却するようなあ重大な違反があり、証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制のため相当ではないと認められる場合、証拠能力が否定されるものと解する。

違法収集証拠排除法則とは?

違法な捜査手続きから証拠が得られる場面を想定しています。

しかし、さまざまな手続きとさまざまな証拠が現実にはあり、現実にはその見つかり方とか見つかる順番は前後します。

こうした状況に合わせて司法審査をかけていく手段として毒樹の果実と違法性の承継があります。

■□違法収集証拠排除法則

原則は、違法に収集された証拠を排除するというもの。

これは端的に違法な証拠収集手続を防止します。

典型的なものが自白で、自白法則があるので、供述以外の証拠についてこの排除法則が適用されていきます。

たとえば、
違法手続き ⇒ 証拠

このようなとき、証拠の証拠能力を否定して排除するもの。

重大な違法でなければ、証拠能力は認められます。

■□毒樹の果実と違法性の承継とは?

これに対して、毒樹の果実の理論と違法性の承継理論は、端的に違法な収集手続と証拠が繋がっているわけではありません。

違法手続き⇒ 【その他の事情】 ⇒ 証拠

このように違法な手続きと証拠の間に、介在事情が入ってきたときにも、違法性を及ぼして証拠能力を否定していくための理屈であると言えます。

毒樹の果実とは?

毒樹の果実(fruit of the poisonous tree)とは、

「違法に収集された証拠に基づいて発見ないし取得された他の証拠又は、違法な先行手続の後、それ自体としては適法な手続きを経て収集された派生証拠のこと」

このような「派生証拠」が排除されるべきか?が論じられるテーマです。
〈Nardone v. United States,308 U.S.338(1939)〉
アメリカ由来ですが、ドイツでも「波及効」(Fernwirkung)として論じられています。

※なお、毒樹の果実の法理、理論などとされたりしますが必ず排除されるわけではないため法理ではない気がします。仮に排除される場合のみをいうとしても基準が無いですしそもそも排除すべきか?が論じられているにすぎないものです

・ 違法に収集された証拠から取得された場合

・ 違法な手続の後、適法な手続によって取得された場合

の2つがあり得ます。

たとえば、

前者は、違法な取り調べによる「任意性に疑のある自白」から取得された「凶器」

後者は、違法な「逮捕・勾留」の後、適法な採尿手続きから取得された「鑑定書」によって差押えた「覚せい剤」

などです。

違法な手続き ⇒ 証拠 ⇒ 二次証拠

と、このようなプロセスで、違法を波及させて二次証拠の証拠能力を否定し排除するというものです。

そうすると、証拠と二次証拠の関連性を検討する必要があり、関連性がなければ、違法は及びません。

※後者の「鑑定書」については違法性の承継が適用され得る

違法性の承継とは?

違法性の承継では、明確に定義されているものではありません。

これは、証拠収集に先行する逮捕手続きに重大な違法がある場合、先行手続と証拠が密接に関連するときは証拠を排除するというもので

判例(最判平15.2.14)で示されたものです。違法性が承継されると表現すべきでしょうか

原則は、「違法収集証拠排除法則」です

違法な証拠収集手続による証拠を排除します。

(明文の無い場合についても認め、一般論として示したのが最判昭53.9.7)

証拠収集手続に違法があるわけではありません。

しかし、排除すべきではと価値判断がはたらきます

そのため、排除するために、違法があった先行手続と証拠に密接な関連が必要とされます。

違法性が承継されるケースは

違法手続き ⇒ 適法な証拠収集手続き ⇒ 証拠

このようなとき、証拠の証拠能力を否定して排除するものです。

たとえば、

・ 違法な逮捕 ⇒ 適法な採尿手続き ⇒ 覚せい剤反応のある尿(の鑑定書)

という流れが典型です。

証拠自体は、適法な手続きから得られているため、排除すべきかが問われることになるのです。

かつては

「違法手続きと適法手続きに同一目的があり、直接利用したような場合に違法を及ぼす」
(最判昭61.4.25)

とされていたため、違法になり難いと言えました。

そして、いまでは、

「ふたつの手続きに密接な関連があれば違法を及ぼす」
(最判平15.2.14)

とされています。

したがって、毒樹の果実のときと同じように関連性を検討すれば良いわけです。

判例の検討

いくつかの判例を追って確認していきます

基本的には、これまでと同じ話です。

■□(最判昭53.9.7)

任意の所持品検査を求め、拒否されたため、ポケットの中に手を入れ覚せい剤粉末を見つけたことの適法性が問題になりました。

・職務質問の要件が存在した。

・顔色や態度から覚せい剤使用の疑いがあり、必要性、緊急性があった。

・所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたにすぎないので、令状主義を潜脱する意図があったものではない。

・所持品検査の際、強制もなかった

以上のような事実を認定して以下のように評価しています。

「必ずしも重大な違法ではなく、証拠能力は認められる。」

■□ 違法性承継の判例(最判昭61.4.25)

本件は、尿の証拠能力が問題となりました。

・自宅寝室まで、承諾なく立ち入ったこと、

・承諾なく警察署まで任意同行し、留め置きしたこと

・尿を任意で提出させたこと

このような事情があり、

「違法な任意同行、留め置き ⇒ 適法に尿提出 ⇒ 証拠」

という違法性が承継されていきます。

立ち入り、任意同行、留め置きという一連の手続と採尿手続きは、覚せい剤犯の捜査という同一目的に向けられたものであると認定します。

そして、採尿手続きは、一連の手続きの状態を直接利用しているため、一連の手続きの違法性の程度を考慮して判断すべきであるとしました。

こちらは同一目的、直接利用で判断した古い判例です。

「承諾を得ずに自宅に立ち入っていること、任意同行の承諾を得ていないこと、退去の申し出があったのに応じなかったことなどは、任意捜査の範囲を超え、違法であり、これに引き続く採尿手続も違法である。

もっとも、玄関先で声をかけ承諾を求めたり、有形力は行使しておらず被告人は異議を述べていない任意同行であったこと、警察署に留まることを強要する言動はしていないことから、一連の手続きは、強制力ははたらいておらず自由な意思で行われていたと認められるため、違法は重大なものではない。」

■□(最判平15.2.14)

本件は鑑定書と覚せい剤の証拠能力が問題となりました。

以下のような事情がありました。

・令状の無い違法な逮捕があった。

・逮捕時に令状を提示したという虚偽の記載の捜査報告書を作成した。

・逮捕後、任意で採尿手続きをした

・覚せい剤反応のあった尿鑑定書を得た

・適法な捜索差押令状により覚せい剤を差押えた。

これはすなわち、

違法逮捕 ⇒ 適法採尿手続 ⇒ 鑑定書

違法逮捕 ⇒ 適法採尿手続 ⇒ 適法捜索差押手続き ⇒ 覚せい剤

こうした流れをとっており、この場合の鑑定書と覚せい剤の証拠能力が問題となった事案です。

判例を追っていくと、まず、逮捕が違法であることが認定されます

「逮捕状の呈示がない手続的な違法がありそれを糊塗するため虚偽の捜査報告書を作成し、公判廷で事実と反する証言をしている。
このような態度を考慮すれば、逮捕手続の違法は、令状主義を没却する重大なものである。」

続いて、このような違法な逮捕手続に密接な関連を有する証拠は将来の違法捜査抑止のためにも、相当ではないものとして証拠能力を否定すべきであるとしています。

「採尿は逮捕当日に行われ、逮捕と密接に関連する証拠であるから、「尿鑑定書」は証拠能力を否定される。」

そして、「覚せい剤」は、尿鑑定書を疎明資料として、捜索差押許可状が発布され得られた証拠であるから、証拠能力の無い証拠である「尿鑑定書」と関連性を有するといえると言います。

ところが、もともと窃盗容疑で捜索差押許可状が発布されていました。

これに基づいて行われた手続きであったため、覚せい剤の差押えと尿鑑定書の関連性は密接なものではないと評価して、覚せい剤の証拠能力を認めました。

少し、特殊な事情があったので結論は変わりましたね。

「司法審査を経て発布されており、逮捕前の捜索差押許可状の執行と併せて行われたものであることなどから、覚せい剤の差押と鑑定書の関連性は密接なものではないというべきであり、証拠能力は認められる。」

最後に

関連性なので、どうしても曖昧にならざるを得ない、事実の評価の問題です。

判例が言う逮捕前の捜索差押許可状の執行と同時に行われたという評価は、独立の捜査活動から得られた場合に証拠能力を認める独立入手源の法理と評価できます。

ただ本件では、もともと窃盗容疑があり、その捜索差押許可状が出ていたので、遅かれ早かれ覚せい剤は見つかったかもしれません。

そういう意味では、「不可避的発見の例外」にも繋がっていきそうです。(といっても、本当は「~だろう」で評価してはいけない)

というわけで、今回は以上です。

多少なりとも整理できれば幸いです。ありがとうございました。