今回は、将来給付の訴えが認められるか?が争われた大阪国際空港事件(最判昭56.12.16)です。
これは、空港周辺の航空機騒音のような「将来にわたり継続することが予測される不法行為」に基づき、事実審の「口頭弁論終結後に発生するであろう損害」についても損害賠償請求を求めることができるのか?という事例です
※口頭弁論終結時までの給付請求は現在給付請求
大阪国際空港事件の事案とは
上記の通りですが、大阪国際空港の管理主体は国なので、住民が、国に対して慰謝料の支払いを求めたものです。
航空機の発着差止請求
騒音によるこれまでの損害賠償請求
そして、これからの損害賠償請求です。
事実審口頭弁論終結時までの請求は現在の訴えでカバーできますが、飛行機を止めない限りそのあとも騒音は続きます。
そのため、その損害が将来請求となってくるというのがポイントです。
不法行為であるため、債権者・債務者という言い方がでてきます。それが判決を読みにくくしているのかなと思います。
将来請求では、損害賠償請求をするために金額を算定しますがその基礎となる「事実」がまだ到来していないことになるため、損害額が確定できません。
そのため争点となっていて、上告理由もこれです。
大阪国際空港事件のポイント
本件の争点である将来給付の訴えが認めらえるか?という論点は、
将来給付の訴えに該当するが、訴えの利益は認められますか?であります
(試験などでも、まず生の主張が将来請求に当たることから認定していく必要があります。)
あと、判例の注意点は、規範を示したわけではないこともポイント
規範っぽくなっていますが、判例の評価(事実認定)であることをお忘れなく
「将来給付の訴え」とは、事実審口頭弁論終結時までに履行期にない請求権を内容とする給付請求です。
これに該当する場合、将来給付の訴えが認めらえるためには、訴えの利益が認められる必要があります。訴えの利益が認められる要件は、以下。
訴えの利益が認められる要件
・将来給付を求める基礎となる資格があること(請求適格)
・あらかじめ給付判決を得る必要があること(必要性)
請求適格と必要性というふたつです。
通常は、将来的に、債権が発生したら、その時に普通の請求として訴えればよさそうですが(現在給付として)
たとえば、
・ 賃貸契約の途中で、もはや支払ってもらえそうにないとか、
・ 公害のように止めることができない不法行為がずっと続く場合の賠償請求
などがあります。
こうした継続的な性質のものが問題となる場面です。
判例の考え方
まず、判例の注意点は、規範を示したわけではないこと。
規範っぽくなっているのですが、判例の評価です。
条文を読むとそれだけでは、必要性があれば認められる、と解されますが、判例は、請求適格が必要であることを示します。(成立範囲を限定)
これはあらかじめ請求する必要がある場合に、将来における給付請求権をすべて認めたものではなく、例外的に、将来給付の訴えを可能としているだけということです。
その例外に該当するための請求適格は、こういっています
それに基づく具体的な給付義務の成立が、時期の到来だとか、明らかな事実の発生による場合など
わざわざ、将来にあらためて請求権の成立要件を立証する必要がないようなものについて請求を可能としているにすぎない」
例えば、期限未到来の債権とか、停止条件付き債権などが典型例です。
では、不法行為が継続されるような場合は、請求適格があるといえるでしょうか?
継続的な不法行為に基づき、将来発生する損害賠償請求権も、
既に権利発生の基礎となる関係が存在しています。
そして、具体的な給付義務が成立するかどうかは、「時期の到来」や「容易に立証できるような事実の発生」にかかっています。
したがって、期限付き債権と同視しうる場合、将来の給付の訴えが許されるとされます。
そして、「継続的不法行為」については、請求権の基礎となるべき事実関係の存在に加えて、その継続が予想される必要があります
さらに、その損害賠償請求権の成否及び内容について必要な条件があります
・ 請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を課しても格別不当とは言えないこと
この2つが必要となるわけです。
(これは射程というか小規範に近いですが。)
本件では、請求は認められませんでした。その理由は
・ 損害は、今後の防止策や生活状況の変化に左右されること
・ 一定程度は受忍すべきであること
・ 受忍限度を超える場合に賠償の対象となるから、それを請求者が立証すべきであること
ということでした。
大阪国際空港事件で残された課題
それは「請求の終期が、不確定期限である」ということです。
判決の流れとしては
第一審では、騒音防止対策の実施やそれによる効果は将来に待つべき慰謝料を算定する基礎が確定していないとして棄却。
控訴審では、請求権発生の基礎となる事実関係が確定でき将来的に発生する損害は不確実な事情があるとしても損害の発生や額を左右するような事情が発生したときに債務者が立証すべきであるとして請求を認めます
そしてこの場合、将来請求はいつまでの分を請求しているのか?という点は、請求の終期と言います。
この点、「便を減らすなどの合意が成立するまで」としました。
判例は上記の通りですが、判決の団藤裁判官の反対意見によれば
それだと、合理的な運行規制が行われても住民が合意しない限り、損害賠償義務を免れないことになる
そのため、「確定的期限を終期とすべきである」と意見しています。
最近ではリニアの問題もありますが、国の施策や開発案件には逆らえないのでなるべく避けて暮らしたいものです。
ということで以上になります、ありがとうございました。