行政法の処分性とは?
処分とは、明確には定義されませんが、講学上行政行為に相当するとされています。
そして、行政庁の何らかの行為が、取消訴訟で争うことができるものについて「処分性」があると言われます。
しかし、定義がないばかりかどういった行為が処分に当たるのか、処分の内容についても条文から明確ではありません。
そうした中で、判例によって規範が示されました。
ただ、これだと実際のあてはめがしにくいとおもいます。
じつは、この定義には、4つの意味があります。
・ 公権力であること
・ 法的効果があること
・ 国民の権利義務に関わること
・ 法的効果が個別具体的であること
※なお、この視点は、3つに整理されることがある。
〇 公権力性
〇 直接法効果性
〇 紛争の成熟性
こちらは、「紛争の成熟性」が問題となり、判例変更がされたことから、とくに紛争の成熟性に言及した整理です。
従前の整理においても、法的効果が個別具体的であることによって、(行政行為には公定力があるから)争わなければ救済されず、紛争の成熟性と重なります。
いずれにしても、紛争の成熟性は読み込んでいくことができるのですが、ちがいは判例をきっかけとして注目されるようになったことが背景にあります。
このように4つの観点からとらえたときに、「どれかにひっかかる」として争われたものが判例です
判例を読むときもこれら4つの観点のうちどの要件にひっかかっている事案なのかを掴むとわかりやすいです。
多くの判例がありますが、それらは事案解決それぞれの争点で事案解決がされているもので、いわばあてはめの事例であり、規範を示したというものではないと思われます。
そのため、この4つの観点から事案を分析する必要があり、
一方で、規範あてはめという構造を考えると、「ごみ焼却場事件」の定義を用いればよいことになります。
処分性についての論述のしかた
では、なぜ当てはめがしにくいと感じるのでしょうか。
それはさまざまな判例がでてきて、あてはめなのですが、ボリュームが多くあたかもひとつの規範を示した重要判例だと思われているからかもしれません。
しかし、実際にはもっとシンプルで4つの観点のうちのひとつについて評価をしているにすぎません。
4つのうち、1つの要件が問題であとの3つは問題ない場合が多いです
4つを要件あるいは規範的にたててしまうと、すべてを検討しなくてはならないため、論述する際は問題の所在をあぶり出していくほうが楽です。
そのため、4つの観点はあてはめのさいの事実認定、評価で使うことによりすっきりすると思います。(下位規範とよぶひともあるかもしれません。)
論述イメージとしては
おおむね以下のようになるかと思います。
公権力性
公権力性については、行政訴訟と民事訴訟とを区別するため求められる要件です。
行政訴訟の大前提です。
「○○は処分といえるか?
処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
本件○○は、
たしかに、こういう理由で、公権力性がないとも思える。
しかし、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行うといえるから、公権力性が認められる。
したがって、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められ、本件○○は処分に当たる。」
このような感じになります。
公権力性があるといえるかどうかが問題になることはあまりありませんが、公権力性を基礎づけるのは法律と地位です。
法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う行為だというのが判例の評価基準ですので、下位規範のように使うと良いと思います。
⇒ 参考判例
労災就学援護費不支給処分取消請求事件(最判平15年9月4日)
法的効果
続いて、法的効果についてです。
しかし、本件事実行為により、…することができなくなるという法律上の効果を及ぼすものといえる。
したがって、本件事実行為は、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められる処分に当たる。」
他にも、…を強いられるとかもあるでしょうか。
⇒ 参考判例
横浜税関事件(昭54.12.25)、
冷凍スモークマグロ事件(平成16.4.26)、
病院開設中止勧告事件(平成17.7.15)
外部性
続いて、外部性についてです。
これは、行政機関の上下などで問題となります。
「本件訓令・通達は、
たしかに、行為の効果が行政内部にとどまるから外部性がないとも思える。
しかし、国民の権利義務に密接な関連を有し、これを争わせるのでなければ権利救済を達成し得ない場合は、外部性があるといえる。
したがって、処分に当たる。」
⇒ 参考判例
(函数尺事件 東京地判昭46.11.8)
紛争の成熟性
紛争の成熟性は、権利救済という点にフォーカスしているので外部性の評価とやや重なる感じがあります。
「本件告示は
たしかに、一般的抽象的行為であり後続する具体的処分を争うべきであり、紛争の成熟性がないとも思える。
しかし、直接かつ具体的に国民の権利義務を変動させるから、紛争の成熟性がある」
⇒ 参考判例
簡易水道条例事件(平成18.7.14)、
保育所廃止条例事件(平成21.11.26)、
二項道路指定告示事件(平成14.1.17)
「本件計画は、
たしかに、後続する処分で争えばよいため、紛争の成熟性がないとも思える。
しかし、誰々の法的地位に直接的な影響を及ぼすから、計画でも紛争の成熟性がある。
したがって、○○は、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものであり、処分に当たる。」
⇒ 参考判例
第二種都市再開発事業計画事件(最判平4.11.26判例)
紛争の成熟性は、判例をきっかけとして注目されるようになりました。
「法的効果が個別具体的なものであること」というのは、「成熟性」と言われるものでもあるのですが、それは、なぜでしょうか。
紛争の成熟性とは?
なぜ、紛争の成熟性と言われるのでしょうか
それは、「公定力」がはたらいているからです。
公定力は、あまり存在感がないため見落とされがち
行政行為には公定力があり、取り消されるまでは有効な行為として存在してしまいます。
これを食い止めるには取消訴訟を使うしかないとされ、排他的管轄が定められています。
つまり、行政行為は有効で食い止める手段がない
そうすると、行政行為は、「個人」に対する効果と言うことができれば、それでもう争うしかない、成熟しているといえるのです。
とくに、計画、告示、決定、実施と順々に一連の手続きを通して行われる行政作用がほとんどです
そのうち、中間段階の行為については事実行為であることが多いです
これを最終的な行為である決定を争えば足りるとするのが原則になるのですが、
現実にはそうもいかないこともあるのでこのような世の中の流れになっていったのです。
ということで、以上になります。お読みいただきありがとうございました。