民法の債権譲渡の対抗要件とは?わかりやすく解説

民法の債権譲渡、その対抗要件などについて簡単に解説していきます。

一文が長くなりますのでスマートフォンの方は横画面にしていただいた方が読みやすいかもしれません。

» 2020年民法改正「債権譲渡はどう変わったのか?」についてはこちら

債権譲渡の対抗要件とは?

債権譲渡の対抗要件は

・ 債務者への通知、承諾
・ 確定日付があること

こちらが原則となってきます。

(債権の譲渡の対抗要件)
第467条
① 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。

② 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

対抗要件というのは、第三者が出てくるときに必要です。

債権譲渡の場合、

債権を譲り渡す人、譲り受ける人、債権の弁済などをしなければならない債務者の3人がでてくる三者間の関係です。

ここで、対抗関係にあるのは、譲受人と債務者です。

譲り受けた債権に基づく支払いを請求し、これに対して、本当に債権者であるのか?という点で支払いを拒むことがあり、これが対抗となります。

債務者からすれば、債権が譲渡されてもそれは知ることができない事情であることが多いですが

他方、債務者は、誰に支払わなければならないのかは重要なことがらです

ということなので、支払を求める譲受人、弁済を迫られる債務者という視点を意識するようにしてください

※対抗関係ということは契約がふたつある、ひとつは債権の発生、もうひとつはその譲渡

では、債権譲渡とはどのような状況であるのでしょうか

債権譲渡とは?

債権譲渡とはどういうことか?

債権というとき、これは請求することができるということです

金融機関の貸したお金ということもありますが、

そのほか典型的には「売掛金」というものです

売掛金は、売上が上がっていて、まだ回収はしていないもの

英語で、「assignment of receivable」と言われる所以です。

これを直訳すると、「売掛金の割り当て移譲」

すなわち、売掛金を他の業者に売るということです。

なぜ、このような事をするのか?それは、シンプルに債権の回収が大変だからです

債権の回収は大変

回収はとても大変です。

家賃の未払いや、消費者金融の借りたお金を返せないとかほんとにもう大変です。

通常、金を貸す側や債権がある方には本業があるから回収にリソースは避けません。

(小さい不動産会社だったら、下っ端が現地に足を運んで玄関ドンドンして督促したりするけど)

しかし、ある人にとって煩わしいことというのは得てして必ずビジネスになります

例えば、

100万円の債権を90万で買い取って、きっちり回収できれば10万の利益
利益率約10%という凄まじいビジネスになります。

このため、過激な人たちは回収を専門とします。法改正があるまでの平成初期くらいは街金が猛威を振るっていました。

回収を専門とする業者もいて法律論のみならず暴力的でもありました。(今もだけど)

消費者金融から借りた場合に返済ができないと回収業者に債権が譲渡され

借りた人からすれば、債権者が貸した人から回収業者へ移るということになります。

では、複数の人に譲渡した場合どうなるか?

これが、不動産の意思表示と物権変動のところでよくでてきた「二重譲渡」の債権版のケースになっていきます。

債権の二重譲渡とは?

二重譲渡されると、お金を借りた人からすればだれに返せばいいかわからない

もし、自分が借りたところとはちがう会社名で請求書が届いたらびっくりするでしょう

聞いたことのない、身に覚えがないと思ってしまうのも無理はないです。

一度、返済したのに、そちらは本当の債権者ではありませんので改めて支払ってくださいといわれてはかないません

そういったことから、借りた人、「債務者の二重弁済の危険を防止」する必要があるのです。

そのため、

債務者への通知、確定日付があること

が対抗要件となっています。

複数の確定日付のある通知が到達した場合

しかし、これでは、複数の確定日付のある通知が到達する可能性があります。

この場合は、債務者はどうすればよいでしょうか。

これは、まず、同じく有効であるため、先に到達した方が優先するように取扱われます。債務者は、先に到達した方に支払えばよいことになります。

「債権譲渡の対抗要件は、第一次的には確定日付であるが、これを共に備えている場合は、債権譲渡が、債務者の認識を通じて譲渡が公示される点に鑑み、譲渡の通知が債務者に到達した日時の先後で優劣が決定される。」
(最判昭49・3・7)

譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって定めるべきではなく、

確定日付のある通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時の先後によって決すべきであり、

また、確定日付は、通知又は承諾そのものにつき必要であるとされています。

※ 条文の意味について補足

『① 一項は、債権を譲り受けようとする第三者は、まず債務者に対し債権の存否ないしはその帰属を確かめ、債務者は、当該債権が既に譲渡されていたとしても、譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていない限り、第三者に対し債権の帰属に変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はかかる債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるという事情の存することによる。

  ② 二項は、債務者が第三者に対し債権譲渡のないことを表示したため、第三者がこれに信頼してその債権を譲り受けたのちに譲渡人たる旧債権者が、債権を他に二重に譲渡し債務者と通謀して譲渡の通知又はその承諾のあった日時を遡らしめる等作為して、右第三者の権利を害するに至ることを可及的に防止することにある。
(最判昭49・3・7民集二八・二・一七四、民百選Ⅱ七版三一)

複数の確定日付のある通知が同時に到達した場合

それでは、さらに、これが同時に到達した場合はどうなるでしょうか。

確定日付のある通知が、「同時に到達したときは、優劣関係は生じない」とされます。

そのため、債権者は債権全額の履行請求ができ

債権者がわからないということは、弁済を免れる理由にはならないのです。

もっとも、債務者としてはどうすればいいでしょうか?

それは、債務者自身に、非があるわけではないので分割させる必要もなく「一方に全額弁済すれば足りる。」とされます

『確定日付のある二通の譲渡通知が同時に債務者に到達したときは、各譲受人は、債務者に対し、それぞれ譲受債権について、その全額の弁済を請求することができる。

そして、譲受人の一人から弁済の請求を受けた債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り、単に同順位の譲受人が他に存在することを理由として、弁済を免れることはできない。』
(最判昭55・1・11)

※他の譲受人は、分配請求ができないとされる。

『指名債権譲渡に係る確定日付のある譲渡通知と右債権に対する債権差押通知とが同時に第三債務者に到達した場合、右債権の譲受人は第三債務者に対してその給付を求める訴えを提起して無条件の勝訴判決を得ることができ、ただ右判決に基づいて強制執行がされたときは、第三債務者は、債権差押えがされていることを執行上の障害として、執行手段が満足段階に進むことを阻止し得る([旧]民訴法[旧]五四四条[民執法一一条に相当]参照)にすぎない。』

〔旧法事件〕(最判昭55・1・11民集三四・一・四二、民百選Ⅱ四版三三)

※なお、実務上、同時到達では供託できませんが

「債権者不覚知を理由に供託された場合、被差押債権額と譲受債権額に応じて按分した額の供託金還付請求権を取得する。」
(H.5.3.30)

とされています。

その他、債務者が対抗できること

譲渡人に対して生じた事由の抗弁があります。

譲渡人は、債務者からすれば、債権者です。

債権の発生する原因となった契約などがありますが、ここで、債権者に対して主張することができたことがあれば、

それは、債権者が譲受人に代わっても対抗できるとされています。

(債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468条①
 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
② 第466条第4項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、第466条の3の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。

対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗できるということなので

債権譲渡通知の時点で、「抗弁が発生する基礎となる事由」が存在していれば、債務者は、譲受人に対抗することができます。

そして、相殺は、相殺ができる状態にあることと相殺を主張することに時間的な乖離があります。

対抗要件具備時(債権譲渡通知の時点)で、相殺ができる状態にあり、まだ相殺を主張していなかった場合はどうなるでしょうか

相殺での対抗

この点については、

債権譲渡の通知前に、債務者が譲渡人に対して反対債権を有していた場合に、相殺をもって譲受人に対抗できる。」とされました。

債権が譲渡され、その債務者が譲渡通知を受けたにとどまり、かつ、通知を受ける前に譲渡人に対して反対債権を取得していた場合において、譲受人が譲渡人である会社の取締役である等の事実関係があるときは、被譲渡債権及び反対債権の弁済期の前後を問わず、両債権の弁済期が到来すれば、被譲渡債権の債務者は譲受人に対し、反対債権を自働債権として被譲渡債権と相殺することができる
(最判昭50・12・8)

受働債権について譲渡があった後に、両債権の弁済期の前後を問わず、両者の弁済期が到来すれば、被譲渡債権の債務者は反対債権を自働債権として相殺をすることができるとされた例です。

これは通知の前に債権を有していれば、両債権の弁済期の先後は問わない、債権が譲渡された後に弁済期が到来しても構わないということになります。

したがって、弁済期が到来すれば、相殺することができることになるのです。

※ただし、事例では譲受人が譲渡人である法人の取締役という実質的に同一人物という事情があった。

というわけで、今回は以上になります。お読みいただきありがとうございました。