堀木訴訟「健康で文化的な最低限度の生活」とは?分かりやすく判例解説

社会権はけっこうむずかしいところです。

堀木訴訟では、有名な「健康で文化的な最低限度の生活」とは何かが論点となり

憲法25条の意味と判断基準が示されました。

堀木訴訟の事案とは?

堀木訴訟の事案とは、

・原告は、もともと障害福祉年金を受給していました

・これに加えて児童扶養手当の申請をしましたが知事から却下処分を受けました

・これに不服申立てをし、棄却決定を受けました

そこで、「却下処分の取消し」と「児童扶養手当の受給資格を認定する義務付け」を求めて提訴しました。

ということで、行政訴訟を行いその中で憲法25条の解釈などが論点としてあらわれたものです。

※結論、原告敗訴

憲法25条の法的性質とは?

原告が障害福祉年金を受給しており公的年金給付を受給できるときには、

児童扶養手当は支給しないとする条項が憲法25条2項に反するかが論点になります。

実際には、13条、14条にも反すると複数理由を挙げて主張しています。

そして、本判決では25条の意味と合憲性の審査枠組みを示しました。

まず、合憲性の枠組みについてですが、25条に反するかどうかは、

立法府の裁量にゆだねられており、裁判所が審査するには適しない事柄であるとしました。

そのため、著しく合理性を書き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合に違憲となると解されます。

25条の意味について

次に、25条の意味についてですが

25条1項は、すべて国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように国政を運営する責務があることを宣言したものであることを示しているとします。

2項は、立法及び社会的施設の拡充等に努力すべき責務があることを宣言したものであることを示しています。

もっとも、1項は具体的な義務があることを規定したものではなく、

2項によって具体的な生活上の権利が充実されていくものであると解すべきとされています。

これは、先例として食糧管理法を引用しています。(最大判昭23.9.29)

1項は国の責務を宣言

2項は努力すべきことを宣言
(食糧管理法事件の引用による)

その理由としては、

健康で文化的な最低限度の生活とは、きわめて抽象的な概念であり

その時代の経済的条件や文化の発達状況によって相対的に決定されるものであること

立法として具体かするには国家の財政事情を無視できないこと

多方面にわたる高度で専門技術的な政策判断が必要となること

こういったことがあげられるからです。

判断基準について

判断基準については以下のように示しています。

まず、健康で文化的な最低限度の生活についても判断しました。

「健康で文化的な最低限度の生活」とは、抽象的な概念で、立法の具体化は政策的判断を必要とする。
そのため、広い裁量に委ねられ、裁量の逸脱濫用でない限り審査判断に適さない。」

そして、判断基準は立法府の裁量があるから裁量の逸脱・濫用を基準としています。

「憲法25条の趣旨にこたえて、どのような立法をするかは立法府の裁量にゆだねられていて著しく合理性を欠き、明らかに裁量の逸脱・濫用とならない限り、裁判所の審査に適さない」

堀木訴訟の判断

「児童扶養手当は、国民年金法における母子福祉年金を補完するために定められたものであるから」

こちらは、受給者に対する所得保障で、公的年金のひとつとして、障害福祉年金と基本的に同一の性格を有するものであるとされました。

・児童扶養手当 →もともと母子福祉年金を補完するもので、受給者に対する所得保障で障害福祉年金をはじめとする年金一般と基本的に同一の性格

・児童扶養手当以外 →養育者に対する養育に伴う支出についての保障

複数事故について

社会保障制度において、同じ人に同じ性格の公的年金を支給する要件を満たすような状況になることを「複数事故」と言います。

一つの事故で、得られたはずの所得が得られなくなったり、稼ぐ能力が低下しますが、これが増えたからと言って、その所得が比例するわけではありません。

このような場合の、社会保障の併給をどのように調整するかは、

立法府の裁量にあり、著しく合理性を欠くものではないと判断しています。

「社会保障制度上、複数事故によって稼得能力の喪失低下が比例して増加するとはいえないとされる。

社会保障給付の公平のため、公的年金相互の併給は立法府の裁量に属する。受給者の範囲や支給金額に差異があっても合理的理由のない不当な差別的取扱いとはならない」

※なお、いまは、年金給付が手当額を下回る場合に併給が認められています。

生存権の法的性質と判断基準について

先ほどの判断基準をもう少し掘り下げて考えてみます。

「社会保障の併給調整は立法府の裁量であるが、二つは基本的に同一の性格を有するため、差別的取扱いは、合理性の無い不当なものとは言えない」

と判断されましたが、次に

障害福祉年金を受けられるかどうかで児童扶養手当の併給禁止規定が定まっているのは14条に反し違憲か?という論点となります。

※25条の法的性質⇒立法府の裁量⇒14条に反するか?という流れをたどる

生存権は立法措置によるものですが、司法審査による裁量統制が必要となります。

ではその判断基準とは何でしょうか?やや判断がわかれています

・最高裁は明白性の原則

「立法府の裁量が著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱濫用と見ざるを得ない場合、違憲となる」

こちらだと弱者の自立を助成する最低保障であるのに緩やかな審査となってしまいます。

・控訴審は1項2項分離論

2項が防貧施策をなすべき努力義務を課し、1項が事後的個別的に救貧施策をなすべき責務を宣言しているものと解する。

2項は広い裁量が認められ、1項は絶対的基準となります。

こちらだと1項は生活保護に限定されることになります。

生存権についての判例

25条の法的性質については微妙に見解が分かれています。

・食糧管理法事件

『国家は、国民一般に対して概括的に本条に定める責務を負担しこれを国政上の任務としたのであるけれども、個々の国民に対して具体的、現実的にかかる義務を有するのではない。(最大判昭23・9・29刑集二・一〇・一二三五、憲百選初版六九)』

・朝日訴訟(念のため事件)

『1項は、国政の運営を、責務として宣言したにとどまる。具体的権利を与えるものではない。』

・堀木訴訟最高裁(食糧訴訟を引用)

『立法府の裁量にゆだねられている。裁量の逸脱濫用でなければ審査に適しない。』

『立法府の裁量に属する。児童福祉手当は、障害福祉年金と基本的に同一の性格だから、合理的理由のない不当な差別的取り扱いには当たらない』

・堀木控訴審(1項2項分離論)

『2項が防貧施策をなすべき努力義務を課し、1項が事後的個別的に救貧施策をなすべき責務を宣言しているものと解する。』

※事案は、児童福祉手当」の受給について、差別的取扱いがあると主張。

※争点は、障害福祉年金の受給をしているかによって児童福祉手当の受給が決まるのは差別か?

ムートネスの法理

おまけになりますが、「ムートネスの法理」というものがあります。

ムートネスの法理とは、事後的に訴訟要件を欠くに至った場合、却下することをいいます。

憲法判断を行ってもいいのか?という論点で採用される法理です。

これに対しては、あくまでも本案判決をしないことを指すため、傍論として、「念のため憲法判断をすることは問題ない」という見解もあるところです。

ということで今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。