百里基地(最判平成元年6月20日)
百里基地訴訟の事案とは?
本件は、不動産所有権確認訴訟所有権移転登記抹消登記請求の中
契約が無効であるということを理由に請求をたてています。
・本件売買契約は憲法9条に反するから無効
・国家が土地を取得する行為は「国務に関するその他の行為」(98条)に当たり9条に反するから無効
・本件売買契約は民法90条公序良俗に反するから無効
原告の所有する土地は、茨城県百里原というところで航空自衛隊の基地を建設するのに不可欠な場所でした。
そのため、原告と国で買収の話を進めていたのですが、町長が使用人を使って買受けようとして、所有権移転登記の仮登記を行います。
もっとも、代金が支払われなかったため、契約を解除し国との間で売買契約を締結し移転登記を行いました。
何が憲法の問題になるのか?
ここで、原告がたてたのは町長側に対する所有権移転登記抹消登記手続請求です。国も原告側として所有権確認を訴えます。
これに対して、町長側は、国が売買契約に関わっていますが、その背景には自衛隊の基地建設があることから、憲法9条違反を理由に契約の無効を主張するわけです。
国が売買契約を行う場合、私法行為であれば問題ありません。
私法上の争いですから売買契約が無効であることを主張します。
その理由が自衛隊の憲法違反というところですが、行為を禁止したりする規定ではない憲法9条が直接適用されるのかは問題になり得ます。
このような争い方は、政教分離と類似した構造です
論点
論点としては、以下ふたつがあります。
憲法9条は直接適用されるのか
国務に関するその他の行為
「国務に関するその他の行為」とは、公権力とを行使して法規範を定立する国の行為を意味します。
また、「その他の行為」とは個別具体的行為であってもそれを通じて抽象的規範の定立にかかわるものを指すとしています。
私法上の行為であればこれには該当しません。
本件では、私人と対等な立場で行っており、法規範の定立を伴わないため私法上の行為であり国務に関するその他の行為には当たらないと判断しています。
これは公法と私法をわけ、憲法の最高法規性は公法に限定して及ぶという考え方です。ここは、学説でも批判のあるところであり、
「国家の行為は、私法的形態で行われようと公法的であろうと憲法の適用を受けるべきである」(高橋和之「立憲主義と日本国憲法」2017)と言われています。
9条の直接適用について
私人間の私法上の行為については、「三菱樹脂事件」(最大判昭48.12.12)にて、憲法の規定は直接及ばないと解されています
本件でも、国の私法的行為に対する憲法9条の直接適用は原則として否定されました。
「私法的な価値秩序のもとにおいて社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が社会の一般的な観念として確立しているか否かが私法上の行為の効力の有無を判断する基準になる。」
本件売買契約のもとでは、国が自衛隊のために私法上の売買契約を締結することは社会的に許容されない行為であるとの認識が社会一般的な観念として確立していたとはいえないため効力を否定される行為であったとは認められず売買契約は有効とされました。
憲法前文第2段の平和的生存権は裁判規範を有するか?
百里基地では、憲法前文第2段の裁判規範性も論点となりました。
平和とは、理念としての抽象的概念で独立して具体的争訟において私法上の効力の判断基準になるものではない
したがって、裁判規範性は認められない
とされ、前文は憲法典の一部を構成し裁判規範性は認められるとのことです。
ということで今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。