既判力に準ずる効力とは?引換給付判決と留保付判決の違いをわかりやすく解説

引換給付判決と留保付判決

引換給付判決では、「反対給付の限度で」という留保付き判決に既判力が生じないとされましたが

一方で、「相続財産の限度で」という留保付き判決では、既判力に準じる効力が生じると判断されました。

限定承認が行われた場合で、

前訴で相続財産の限度で支払え、という判決が確定していると、

後訴で限定承認に反する行為がある場合、現実にはこれを再度争うと思いますが

どのような手続で争う必要があるのでしょうか。

民事訴訟は手続が適切かどうかという話なので現実の結論(判決)とは距離を置いて考えるクセを持つことが重要です。

こうした視点で考えていきます。

相続財産の限度での支払を命ずる判決が確定した場合における判決の効力

相続財産の限度での支払を命ずる判決が確定しているときは、債権者は相続人に対し、後訴にで、無留保の判決を求めることはできないという結論です。

判決の基礎となるのは、事実審の口頭弁論終結時以前に存在した事実のため

口頭弁論終結時以前に限定承認と相容れない事実があったとしても、その事実を主張して

自身の債権について無留保の判決を求める主張は認められないことになります。

被相続人に対する債権につき、債権者と相続人との間の前訴において、相続人の限定承認が認められ、相続財産の限度での支払を命ずる判決が確定しているときは
債権者は相続人に対し、後訴によつて、その判決の基礎となる事実審の口頭弁論終結時以前に存在した限定承認と
相容れない事実を主張して、債権につき無留保の判決を求めることはできない。

なぜこうした結論となるのかは、訴訟物があくまでも「給付請求権の存否と範囲」だからです。

限定承認の有無は給付請求権がどこまで発生するのかを決定づけます。

さらに、それが○○の範囲で支払え、と主文に明示されるので既判力が生じるべきです。

ただ、既判力とはっきりは言えないので言い方として既判力に準じたと表現しているのです。

「相続人が限定承認し、相続財産の限度で支払を命じた留保付判決が確定した場合には、訴訟物は給付請求権の存在と範囲であるが、限定承認の存在・効力もこれに準じて審理され、判決主文に明示されるから、この点にも既判力に準じた効力が及ぶ。
債権者は、前訴で主張できた口頭弁論終結前の限定承認と相容れない事実(法定単純承認など)を後訴で主張して限定承認の存在・効力を争うことは、許されない。」

(最判昭49・4・26民集二八・三・五〇三、民訴百選五版八五)

なぜ引換給付判決と留保付判決は違うか

既判力に準じる効力ということは、既判力に素直には当たらないわけです。

ここで前訴は、債権者の給付請求権の存否です。

訴訟物が、債権者と被相続人との契約に基づく代金支払請求権ということになり

請求原因が、契約締結、死亡、子であることとなります。

これは必然的に、限定承認の存在も請求原因の際、審理されることとなるのです。

そうすると、手続保障が及んでいると考えることができるます。

結局、請求原因に含まれていると考えることができるかどうかという点が大きく

これが引換給付との結論が分かれる違いとなります。

引換給付は完全に実体法上別だからです。

限定承認は債務を縮減するかどうかの事実であり、債務があるかどうかではなく、あることを前提にしているといえます。

引換給付判決の主文の例

参考までに引換給付判決の例を考えてみます。

「被告は,原告に対し,583万3807円及びうち460万3238円に対する平成31年2月9日から,うち123万0569円に対する令和元年12月5日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」(R)
「各被告は,それぞれ,当該各被告に対応する各原告から,各車両の引渡しを受けるのと引換えに,同各原告らに対し,合計額欄記載の各金員及びこれに対する令和2年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」 (R2)

通常、
・被告は合計額欄記載の金員及びこれに対する〇〇から支払済みまで年〇分の割合による金員を支払え
となります。

ここに、
・引渡しを受けるのと引換えに
という文言が加わります。これが引換給付判決の主文。

このうち、
引換給付判決における「反対給付と引換えに」という趣旨の部分は、

強制執行開始の要件(民執31条1項)を示すにすぎないので、既判力を生じないとされます。

規範力は主文の文言に生じるものとされていますが、

主文に掲げられており、判決理由中でも判断されているにもかかわらず、引換給付部分の反対給付については既判力が生じません。

その理由を端的にいえば、訴訟物ではないからです。

主文に含まれるのは実体法上の権利の存否であって

訴訟物は、契約に基づく引渡請求権です。

この請求権の存否が既判力として確定していることになります。

そうすると、代金支払請求権は実体法としては関係ない別の権利と考えられるから訴訟物には含まれないということです。

現実問題としては非両立であることが多いと思いますが、

実務としては旧訴訟物理論を採用しているため、理屈としては、別の契約があって権利が発生している可能性がある以上

別個の権利となるという非常に狭い考え方です。そのため、少し不思議な感じがするのだと思います。

主文への記載は、必要条件ですが

主文に記載されたものすべてに既判力が生じるわけではないので、十分条件ではありません。

手掛かりにはなるけど、それが「答え」ではないということらしいです。

原則としては、既判力が生じない。

ということで今回は以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。