管轄移送の判例(最決平20.7.18)
管轄とか、移送のところはややこしいです。基本書を読もうとしてだいたい眠くなるところです。
地裁の自庁処理という論点で判例百選に掲載される重要な判例です
この判例(最決平20.7.18)が何を示した判例かというと、
地裁に訴え提起されたが、簡裁を専属的合意管轄裁判所とする合意が契約によってなされている場合
「合意がある場合に、簡裁へ移送すべきか否かの判断基準」
というところです。16条1項では、申立てがあった場合、移送することを定めています。
被告からすれば、応訴の煩がありますので、大阪居住で東京に呼び出されてはたまったものではないので、移送申立てをします
これに対して、16条2項によると、地方裁判所が自ら裁判ができます。これを「自庁処理」と呼びます。
それで、第一審裁判所について契約に取り決めがあるような場合、自庁処理によって、地方裁判所が自ら裁判できるのか?
この点が論点です。
で結論からいうと
基準は明確ではありませんが、基本的には、実際の裁判をするとした場合をイメージして、妥当な結論を導くことを想定すれば良いかと思います。
たとえば、契約書には簡易なものでも必ず第一審裁判所をどこにするかという契約条項が最後の方に入っていると思います。
多くの契約書がテンプレをネットから意味が分からずとも流用して作成しているかと思われますが、東京で完結したりするのでわりとあまり問題になりません。
ところがそうはいかないこともあります。
多くの会社は本社くらいにしか法務機能がなく本社はだいたい東京です。
大量消費社会において、(とくに物販であれば)消費者は全国津々浦々に拡がっています。
そして、契約もこまかいところはチェックしてません。そんなこんなで、いろいろな事情があると思いますが、
いずれにしても合意のもとに第一審裁判所が定められていても、地理的に離れていれば被告としては甚大な「応訴の煩」というわけです。
移動に長時間かかるとか、全国に店舗・支店があるかとか、証拠の存在とか、合意があってもそれは真に合意ではないこともあるし、移送するのが適切といえる事情があったりしますので、裁量にゆだねられます。
なお本件は、大阪府内で、地理的には離れてないです
本件の事案
おおまかな流れとして、
①原告、訴え提起
②被告が、管轄違いを理由として、移送の申立て
③この移送申立てが却下。(原々決定)
④この第一審の原々決定に対し、被告が抗告
⑤抗告認容され移送が認められた。(原決定)
⑥最高裁にて、移送の決定がされていた原決定を破棄し、移送申立てを却下した原々決定に対する抗告は棄却となった。
ってなかんじです。控訴審がひっくり返して、さらに最高裁がひっくり返しました。
(第一審が原々審、控訴審が原審です)
ポイントとしては、実際に提起されたのが地裁で、合意管轄となっていたのが簡裁です
この事物管轄(地裁か簡裁か)にズレがあるところです。
事物管轄は本来、訴額140万で線引きされますよね(裁判所法33条1項1号、24条1号)
これは、当事者間の合意で変更することができます。
本決定の内容
それで本決定では
したがって、地方裁判所に裁量があり、裁量の逸脱・濫用が無い限り、違法とはいえない。」
としています。さらに、具体的に示してます。
これは、16条2項ただし書かっこ書きに「当事者が第11条の規定により合意で定めたものは除く」とあることを理由としています
どういうことかというと、まず、11条とは、「専属的合意管轄の規定」で、当事者で第一審裁判所を定めることができる規定。
16条2項ただし書は、この「当事者の取り決めは除外される」と言っています。
何から除外されるかというと、
まず、16条2項本文は「自庁処理できること」を定めています。
そして、同項ただし書は、その自庁処理の例外を定めているので自庁処理できないもののことを「簡裁の専属管轄」として定めています。
その自庁処理できない簡裁の専属管轄の中から、当事者で取り決めをした「専属的合意管轄によるもの」を除外しています。
したがって、当事者の取り決めは、自庁処理できないものから除外されます。
(自庁処理できることとなる。)
判例の論理組み立て
なお、判例の論理の組み立ては、ちょっとややこしくて
まず、自庁処理の判断基準について述べ、
それから、簡易裁判所への移送を申立て却下の判断基準も同様とする
という流れをとっています。
なるべくカンタンにまとめると
そのため、自庁処理の相当性の判断は合理的な裁量にゆだねられている。
そして、簡易裁判所を専属的管轄裁判所とする合意がある場合も、かかる趣旨及び同項ただし書かっこ書き等の趣旨にかんがみ、地方裁判所による自庁処理が相当であるかという観点から判断されるべきである。?」
なんか簡裁判事がオブラートにディスられてますね…!