明示の一部請求後の残部請求は認められるか?後遺症の損害賠償請求

今回のお話のよくあるケースは、不法行為による損害賠償請求をした後に、後遺症が発症してその損害賠償請求をしたケースです。

はじめの請求も後の請求も、同じ原因によるものです。

そして、損害賠償請求をしているのですが、これをはじめの請求を一部請求、のちの請求を残部請求と構成することができないのかという問題意識です。

これは、結局のところどう説明するかに帰着するのだと思いますので

深入りしていくと難しくなってきます。

私もよくわかりませんので、自分の中で納得のいく説明ができればいいかなという程度です。

■一部請求後の残部請求

そもそも、一部請求は認められるのかについてですが、

これは、旧訴訟物理論に抵触しそうな話であり、学説ではいろいろと言われているところではありますが

実体法上債権は分割することができますし、旧訴訟物理論からも認められます。

つまり訴訟という現実の話では、蒸し返しとなることがあるのではという点が論点となります。

既判力がむずかしいのは、机上の理屈と現実世界で起こることのすれ違いをことばで説明しなければならないからです。そのため、既判力では訴訟政策説というものが採られているところです。

学説は理論なのでぐちゃぐちゃしますから、まずは感覚的に結論とアウトラインを把握すると良いかなと思います。

・一部請求の問題点

一部請求の問題点とは、そもそも、本来、一個の請求権であるものを分割して請求して、後になって残りを請求するというような方法は認められるのか?ということです。

そもそも、一個の請求権であるものを分割して請求して、後になって残りを請求するとはどういうことなのでしょうか。

こうしたやり方をしたいニーズはわりとあるのですが、とくに、交通事故の不法行為に対する損害賠償請求があります。

ここで、全損害が把握できない場合に、勝負にでて金額の証明に失敗して請求棄却となり一円も得られないのでは酷です。

交通事故などはお互いに過失があり、必ずしも映像が残っているわけではないというようなケースが多く、全損害額を把握し得るが技術的に難しいです。

さらに、後に後遺症が発症しその損害を立証する場合、訴訟のとき、後遺症の発生はそもそもいまだ発症していない以上、原告に後遺症も含めた全損害額を提訴することを期待できないわけです。(「期待可能性がない」)

つまり、不法行為の後遺症は、実体法上はひとつの請求権となるのですが、最初が一部請求そして、後遺症についてが残部請求とふたつに構成することによって、訴訟物が異なり既判力が生じないと説明するのです。

結局のところ、ここでの話は、あらためて損害賠償請求することを認めたいという感情があり、結論ありきで、どういう方法を採るべきで理屈をどのように説明しようかというものです。

判例
二つの判例があり、結論が割れました。学説は理論のため形式的な整合性をとりたくて紛糾してしまっています。

・最判昭37.8.10

一個の債権の数量的な一部のみ判決を求めることを明示して訴えを提起した場合、
「訴訟物は一部の存否であるから確定判決の既判力は残部の請求に及ばない」
と判断され残部の請求が認められました。

・最判平10.6.12

一個の債権の数量的な一部のみ判決を求めることを明示して訴えを提起した場合、
債権の全部を審理することが必要になります。
そうすると、棄却する判決は、後に残部として請求し得るものが存在しないという判断を示すものにほかなりません。
したがって、
「敗訴した原告が、残部の請求をすることは蒸し返しであり信義則に反して許されない」
とされました。

・ふたつの判例のちがい

いろいろ考え方があるようですが、個人的には、シンプルに「原告が敗訴しているかどうか」のちがいではと思っています。

まず、昭和37年判決は、30万の損害を受けたことを理由に10万の明示の一部請求をして、8万の認容判決を得ています。

これは、2万円については残念ながら認められないけれど、少なくとも8万はあるということを言っているにすぎず、

発生原因の審理はしていても20万の存否については判断を下していないことになります。

一方、平成10年判決では、12億の報酬請求があることを理由に1億円の支払請求について明示の一部請求をして、棄却判決となっています。

そのため、発生原因である契約があるかないかという択一関係になります。

この判決内では平成2年判決を引用していますが

明示の一部請求の場合で棄却判決が出てしまうということは、「債権の現存額を確定して現存額がまったく現存していないと判断されている」ことを意味します。

もし、すこしでもあれば現存額の限度で認容判決が出るはずなのです。
これが、平成2年判決の考え方でした。

だからこそ、「敗訴した原告が残部請求を提起することは、(信義則に反して)許されない。」という言い方をしているのだと思います。
ただその結果として、原則として既判力は残部の請求には及びません。

こうして考えると結局、
原告は、後遺症などについて残部の請求をすることができるはずなのですが
もっとも、敗訴していた場合(明示の一部請求を棄却されている場合)は、残部の請求をすることができなくなってしまう

というような考え方ではないかなと思います。

判例は紛争解決の事例判断ですから、これを学説ではいろいろがんばっていますが、なかなか整理しようとするのはきついかなあと思います。

■後遺症に伴う損害賠償の追加請求

後遺症に伴う損害賠償の追加請求は、「身体障碍を理由とする損害賠償請求で勝訴した後に予想していなかった後遺症に伴う損害が発生した場合、その追加請求ができるか」というケースです。

たいてい原告は、後遺症によって発生した損害まで含めて全額を提訴することなどできません。

これを「期待可能性がない」という表現をします。

そもそも、予想していないから後遺症なわけです。
結論からいうと、これを不適法とする見解はないです。

そうすると、後遺症の損賠賠償請求は一部請求の残部なのか、そうだとするとはじめの請求は一部請求だということを明示して通告していないことになるのではという疑問が出てきてしまいます。

ただ、損害賠償請求権は、不法行為によって発生するので、後遺症が発症した時に権利が発生するわけではありません。
そのため、権利の発生原因事実は同じであり一部請求だということになるということです。