憲法の合憲限定解釈とは?具体例からわかりやすく解説

対象読者

・憲法を初めて学ぶ方
・司法試験・公務員試験受験生の方
・法学部の方

「憲法の合憲限定解釈とは何だろう?具体例が知りたい」

こんな疑問にお答えします。

※法律は一文が長くなります。スマートフォンの方は横画面にしていただくと読みやすいかもしれません。

本記事の内容

・合憲限定解釈とは?

・合憲限定解釈をした主な具体例

合憲限定解釈とは?

合憲限定解釈とは、「法令は憲法に適合しているけれども、原告に対する法律の当てはめが間違ってるという判断をすること」

このように事案解決に向けた判断をする技術がいくつかあり、そのひとつが合憲限定解釈です。

そもそも、憲法判断は事案の解決です。

憲法判断が問われるのは、民事訴訟・行政訴訟・刑事訴訟で、原告の個人的な人権が侵害されているようなとき。

違憲判決は、社会正義かもしれませんが、原告だけのために、法令を変えるのは、正直、社会に与える影響と変動が大きいわけです。

大事なのはバランス

変な話ですが、原告一人がどうなろうと社会は変わらない一方で、法令が違憲となれば、改正しなくてはならないかもしれません。

本当に改正するだけの問題か、微妙なラインも否定できないし、役人として、このあたりのバランスは取りたいものです。

法令は合憲であることが前提

本来、法令は合憲性が推定されるのが原則です

ただ、精神的事由(とくに、表現の自由)については、例外として、違憲が推定されるのです。

「二重の基準論」と言って、「精神的自由を脅かす法令については、経済的自由のときより厳しく審査する」という考え方があります。

この「厳しく審査する」という意味は、「違憲に傾きやすい」ことを意味します。

合憲限定解釈をした主な具体例

合憲限定解釈の具体例としては、「憲法判断そのものの回避」と「法令の文言・解釈を合憲の方向で行う」という2パターンがあります。

法令の文言・解釈を合憲の方向で行うものが多いです。

恵庭事件と合憲限定解釈

恵庭事件は、すこし特殊で、違憲の争点にふれず、事件の解決をしてしまい、判断を行わない方法です。

被告人が自衛隊の電話線を切断して起訴されました。

被告人は、「自衛隊は、9条違反だから無罪である」と争った事例です。

この判決では、

「そもそも、自衛隊法121条の構成要件に該当しないから被告人には犯罪が成立しないため無罪!

自衛隊については判断する必要がない!」

(札幌地判昭42.3.29)

このように言って、9条の解釈には触れませんでした。

事件の解決のためには被告人が有罪か無罪かが判断できればよいのです。

そもそも構成要件に該当しないとすれば、憲法判断をせずに事件が解決できるものでした。

都教組事件と合憲限定解釈

都教組事件は、法令の「煽り行為」を合憲の方向で、限定 = 狭く解釈したものです。

当該規定の「煽り行為」とは、煽り行為一般を指すのではなく、

特に違法性の強いものを指す、と狭く解釈する

(最大判昭44.4.2)

このようにあてはめとして煽り行為に当たるかを問題としています。

全農林警職法事件と合憲限定解釈

全農林警職法事件は、
第1に、違法になるものとならないものと区別して
第2に、違法性の強いものと弱いものに区別するということが明確性に反するとしました。

この2段階で範囲を限定することを「二重のしぼり」と言います。

「“争議行為“のうち、違法とされるものとそうでない者との区別がある。

さらにそこから違法とされる争議行為にも違法性の強いものと弱い者との区別を立てる。

したがって、処罰されるのが違法性の強い争議行為に限られるというような不明確な解釈は、明確性の原則に反する」

(最大判昭48.4.25)

このようにいって無罪としました。

税関検査事件と合憲限定解釈

税関検査事件は、風俗を害すべき図書とは何を指すのか?があいまいでした。

そこで、判例は、やや強引ですが、「風俗といえば、性的なものを指すのだ」と言い切ります。

「“風俗を害すべき書籍、図画”は、
専らわいせつな書籍、図画を意味するので明確性に欠けることはない」

(最大判昭59.12.12)

福岡県青少年保護育成条例事件と合憲限定解釈

福岡県青少年保護育成条例事件では、淫行の定義を、性交をひろく指すのではなく、青少年の人権を侵害するような性交行為と狭く解釈します。
互いに愛のあるもの行為はセーフということでしょうか。

「“淫行”とは、青少年を、単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っている、としか認められないような性交又は性交類似行為をいう」

(最大判昭60.10.23)

以上のように、合憲な解釈が成り立つことを理由に、違憲判断を避けていきます。

事例によっては、原告を救済する必要からこんな言い方をしたりします。

「法令の解釈を誤った違法がある」

合憲限定解釈は、法令の解釈を狭めることで、規範を限定する技術なのです

法令を救済すると同時に、あてはめで本件の行為は、違憲であるとすることが可能になります。

というわけで以上になります。ありがとうございました。