民法の所有権留保とは?わかりやすく解説【自動車リース事例】

今回は、所有権留保についてです。

所有権留保はそれほど目にする機会も多くはなく、そもそも仕組みからよくわからないという人が多いかと思います。

今回は実務的な視点から所有権留保を考えていきたいと思います。

» 非典型担保の仲間である「譲渡担保権とは?わかりやすく解説」はこちら

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なぜ所有権留保の特約をするのか?

なぜ所有権留保の特約をするのか?

その理由として、大まかには以下の3つの理由が挙げられるかと思います。

・代金債権の回収を優先的に行うため

・解除原状回復の場合、解除前の第三者に優先できず、解除後対抗要件を具備されると返還は不可能となる

・動産先取特権では、第三取得者に対抗できない(消滅)し、物上代位は非常に困難である

不動産は担保物権があるため、所有権留保は多くの場合、動産売買で使われます。

所有権留保の法的性質とは?

代金完済という停止条件付売買契約と考えることもできますが、目的は「売買代金債権を担保すること」です。

そのため、売主の権利は「債権担保」に限定すべきとなります。

ということで、売主には担保目的に限定された所有権が帰属し、買主には物権的な権利が帰属すると考えます。

このときの、買主の物権的権利を「物権的期待権」といいます。

判例で所有権留保が問題となったケースとは?

判例で所有権留保が問題となったケースは、

ディーラーが、ユーザーから目的物を引き揚げた

という事例が有名です

このときは、サブディーラーがいましたが、ここ辺の仕組みがあまりよくわからないという人が多いと思います。

イメージが湧きやすいように、自動車販売を例として日常生活の視点からいくと

ディーラーが、「正規店」、サブディーラーが「代理店」、ユーザーが「消費者」としておきましょう

扱う商品は自動車で、代理店は、正規店から仕入れるものとし、

代理店は正規店より安く色々な種類の車を販売しているため、消費者は代理店で選び購入する、ということとします。

消費者が代理店で購入したものの、正規店から、自動車を引き揚げられてしまったということです。

なぜか?正規店の主張の理由が所有権留保により所有権が我々に残っているからというものです。

これは、代理店が仕入先の正規店へ支払いを滞納してしまったために発生します。債務不履行です。

売る側は掛売り、売掛金とか、買う側は買掛け、買掛金と言ったりしますが、企業同士の売買では、決済日が先延ばしになっています

そうすると、商品が第三者に渡った後に決済されるということもあるのでこのような事態が発生し得るのです。

これが、所有権留保と第三者の関係、(とくに売主と転売相手方との関係)です。

判例の判断とは?

判例は、消費者を保護のため、

引揚げ行為は、「権利の濫用」として許されないとしました。

さらに学説は、

「権利濫用では、所有権がディーラーにあることを認めることになるから消費者保護として十分ではない」

などと言っていて、これは実務感覚と乖離していることが窺われます。

「買主が目的物を他へ転売することが予定されているときには、いくら転得者が所有権留保の存在について知りうべきであっても売主の権利実行を許すのは妥当ではない。(転売容認と所有権留保とは矛盾行為である)『道垣内;担保物権法第4版370頁』

このように言われていますが

さて、これはどのように感じるでしょうか。

所有権留保と実務的な感覚

どちらをどのように保護するかというのは、価値判断であって分かれ得るので、当否は主張しません。(それぞれ考えてみてください)

かわりに、実務感覚とは異なるなという点を示しておきます。

まず、転売についての認識が逆です。

転売行為というのは、儲けるためにやるビジネス行為です。

転売する者というのは再販業者と言って、一定のリスクを負ってなんとか利益をとろうと参入しているわけです

さまざまな種類の自動車を集めてそれが強み、「売り」、ですが、売れ残れば「負債」です。

中小規模の販売店(先ほどでいうと代理店)は、多くの顧客と接し売上を作ります。

そのため、特定のメーカーだけでなく豊富なラインナップで、中古車輸入車と取り揃えます。

旧財閥のような大きな会社が子会社として設立したような会社などで十分な資力が見込めればいいですか、基本的には買掛(か、もしかしたら手形)です

そうすると、事業としての不確実性や未払いリスク不渡りリスクがあることは、売主側も当然わかってますしそれ故に所有権留保を特約するのです。

「仕入れたいです、絶対に売ってきますから売上が上がったら支払います」、「では、そのかわり所有権は留保しておきます」

こういった仕組みで契約されていて、高額商品の場合そもそも転売、留保ありきのビジネスモデルなのでしょう。

不動産でも融資特約といって、金融機関の融資が下りなければ契約を白紙とすることを当たり前に行います

というわけで、転売を容認しているからこそ留保特約をつけて支払いを担保するのです。

「転売容認と所有権留保とは矛盾行為」というのは評価が異なります。

そもそも、ディーラーサブディーラーとはどういう店舗のことをいうのか?

ディーラーには販売業者の意味がありますが、自動車業界におけるディーラーとは、「あるメーカーやメーカー系の販売会社と特約店契約を結んだ店舗」のことをいいます

例えば、
「トヨタ」、「トヨペット」、「レクサス」
「ホンダカーズ」
「日産プリンス」などで

メーカーと特約店契約を結んだディーラーは、スタッフのサービス水準などの品質がメーカー基準に統一されます。

そのため、全国どこへいっても同じ品質のサービスが提供され安心というメリットがあります。故に比較的割高となります。

一方、サブディーラーはディーラーと違い、特定メーカーと特約店契約をしていない自動車販売会社のことです。

街中でさまざまなメーカーのロゴマークを掲げている自動車販売店があると思います。

サブディーラーなら新車、中古車、外車、一つの店舗でさまざまなメーカー車を試乗し比較検討できることが大きなメリットといえます。

サブディーラーは本当にコストが安いか?

このようなサブディーラーはコストが安いというイメージがあります。

しかし、それは本当にそうでしょうか。

構造としてメーカーから直接仕入れるディーラーから仕入れるのがサブディーラーであることを考えると、ディーラーよりも安いということはなさそうにみえます。

すなわち、「何かのコストを削っている」ことになり、それはスタッフサービス、純正パーツ修理、品質などです。

これは、よく言えばサブディーラーの企業努力かもしれませんし起業家の人や資本主義が好きな人はこの辺りを主張しています。

ただ、あくまでビジネス視点での参入です。一定の有用性はあるかもしれませんが、本来はなくても良かった存在という側面もあります。

そうすると、やはりサブディーラーの無資力の危険が一定程度考えられる以上、そのヘッジのために売主が所有権留保を特約するものと考えるのが基本的なビジネスとしての法律の考え方になると思います。

もちろん、これを認めると純粋な法律的な視点からの「ユーザーに責任を負わせる結果になり得る」という指摘は頷けます。

しかし、「ディーラー」という高品質高価格の正規店がある以上当たり前の話ですし、予測可能性もありますし、支払金が戻ってくれば実害は無いので、やや苦しい主張かなという印象です。

ということで、以上になります。お読みいただきありがとうございました。