【民法】登記に公信力がない理由とは?わかりやすく解説

登記には公信力がないと言われます

その理由はどうしてでしょうか。

そもそも、公信力とはどういう意味でしょうか

こんなところがテーマです

公信力とは?

公信力とは、登記や引渡しがある一方、契約など権利が変動するための事実がない場合、権利が変動したものと認める効力のことをいいます。

「登記・占有などの権利関係の存在を推断させる外形的事実はあるが、真実にはこれに相応する権利関係が存在しない場合にその外形を信頼して取引をした者に対し、真実に権利関係が存在した場合と同様に権利取得を認める効力」

不動産のみならず、動産も含まれる概念です。

不動産の場合、登記が、動産の場合、引渡しがあれば権利を取得することができるということになります。

日本の民法では、動産では認めています。それが「即時取得」です。

他方、不動産では認めていません。登記があっても契約がなければ権利を取得できないのです。

公信の原則とは?

公信の原則とは、権利が存在すると思われる外観があれば、権利を取得することができるというものです。

たとえば、動産の場合、権利を取得した理由はなんであろうと、「引渡し」により占有を取得すれば所有権を取得できます。

これを「公信の原則」といいます。

公信の原則とは、「実際には権利が存在しないのに権利が存在すると思われるような外形的事実がある場合(これを公示という)にその外形を信頼し権利があると信じて取引をした者を保護するためにその者のためにその権利が存在するものとみなす原則」

動産では、取引が大量で、かつ迅速な対応が必要になることから

権利が存在すると思われるような外観があれば、権利を取得できます。

公信力を認めると、帰結としては所有権を取得できることになり、認められないと所有権を取得できないということになります

「動産の占有」では公信力を認め、「不動産の登記」では公信力を認めていません

動産には即時取得があり、単なる占有者を所有権者と信頼して取引をした者を保護していますが

不動産では不実の登記を信頼して取引をした者が保護されない

だからこそ、(それではあまりにも可哀そうなケースがあるから)判例では、94条2項を類推適用しているのです。

※「不実登記を信頼した者を保護するとしている(最判昭45.7.24民集24.7.1116)

» 「94条類推適用とは?判例をわかりやすく解説」

公示とは?

公示とは、物権変動を外部から認識できる方法のことです

動産にしろ不動産にしろ、当事者以外の者にとっては、当事者の取引記録はわかりません。

内情についてはもちろん、契約書すら手に入らないでしょう

そのため、世の中的には、外部に権利関係を表示する仕組みが必要です。

それが登記や、引渡しなどでこれを「公示」といいます

公示の原則

公示の原則とは「物権などの排他的な権利の変動は外部から認識できる方法を伴わなければならないとする原則」

これによって外部から認識はでき、権利を喪失した者が明らかになる以上、権利を喪失した者と取引をする第三者が現れることはなくなります。

物権変動は意思表示によって成立するため、当事者以外の人間には知ることができません

当事者以外の人のことを第三者といますが、第三者との関係では対抗要件が必要となるのです。

公信力が認められていない理由とは?

では、なぜ、公信力が認められていないでしょうか。

権利者から容易に権利を奪うべきではないという価値判断がはたらいているからです

正直、このあたりはそれほど議論されていないらしく

あまり、よい説明がされていません。

「そういう感覚だ」としかいえないところかもしれません。

(定住を基礎としており、いまある資産を重視する農耕民族の思考感覚)

「権利の喪失によって深刻な不利益を被る」から

そう言われてみなさんはなるほどと思うでしょうか。

個人的には非常に疑問です

公信の原則は、即時取得のように第三者を保護するための制度を認めるもので

公示の原則は、取引を保護するためのもの、物権変動の対抗要件を認めるもので

そして、対抗要件が認められています

それから、日本の民法は意思主義を採用していることもあります。

意思主義では、意思表示をするだけで権利関係が変動します。

そのため、不動産といえども権利関係は変動することになります。

この場合、登記があれば必ず保護されるということになると、この意思主義と抵触することになります。

二重譲渡があったとき、意思主義からも登記からも権利を主張することになります。

それから、意思表示の瑕疵にも対応できません。

瑕疵があっても、登記を具備されると保護されないということになります。

そうすると、明らかに立法上、不備が生まれます。

あくまでも不完全な物権変動で登記による公示を求めさらに登記には公信力を認めません。

ということで非常に保守的に権利が簡単に動かないようにしています。

登記を絶対視することが本当に良いのかという価値判断もあるのだろうと思います。

もちろん、登記の公信力がないことによる不都合もあります。

これをクリアするために94条2項類推適用で権利外観法理を認めています。

※なお、「対抗」について

対抗力とは、ある法律関係を当事者以外の第三者に対して効力を及ぼすことができることをいいます。

当事者以外のひとに法律の効果が及ぶことを「対抗力がある」とか「対抗力を有する」といった表現をします。

対抗力を有するためには登記が必要になるためこれが「対抗要件」とよばれます

要件とは効力が発生するために必要な条件のことです

なお契約が成立するかどうかは意思表示ですが、これは「成立要件」といいます。

このように当事者関係と第三者との対抗関係とで分けられています

なお、当事者以外の者を「第三者」といい、第三者との関係を「対抗関係」です

当事者以外をすべて第三者というとすべてになってしまい実際的ではないので、

利害関係がありそうなひとに限定するために第三者の意義が至るところで論点になるのです。

終わりに

日本では、公信の原則が認められていない

これは日本独特の価値観がはたらいているように思われます。

日本では、島国だったこともあり定住に基礎をおく農耕民族であり続けました。

口分田にはじまり、ずっと土地というものが動かぬものとしての資産という価値を持っていました

一方、西欧では、民族、領土が流動的でした。

遊牧民は領土を侵略しても土地より宝石を重視して奪い他の土地を探すというような文化があります。

日本が参考にしたドイツ民法では、公信の原則が認められています。

ドイツのルーツ、ゲルマン民族は農耕民族ですが、大移動があったことなどから、日本よりは流動的な価値観が形成されているのではないかと思われます。

というわけで、今回は以上になります。お読みいただきありがとうございました。