【民法の虚偽表示】94条2項類推適用を論証できますか?

以前、94条2項の基本をカンタンに解説しようとしたんですけど案外、重くなってしまったんで分けました

最判昭45.9.22の事例について

事案としては、

男女の関係にあった二人

女が、男の実印を勝手に使って、男の持っている家を自分の登記とします。

男はこれを知り、登記を戻すように女と話したのですが

登記を戻すのに登記費用がかかるので、そのままにしていました。

時は経ち、、なんと二人は結婚して、さらに離婚します笑

女は訴訟を起こすのですが、これまた訴訟費用がかかるので、

女は、自分の名義になっているこの家を売りとばしましたとさ。

(はちゃめちゃですね)

裁判となったのは、男が、この家の買い手に対して、登記の抹消を求めたからです。

真実の所有者(男)と第三者(買い主)という事例なわけです

これが今回の事例。最判昭45.9.22です

男は家を取り戻せるのか?

さて、男は家を取り戻せるのでしょうか?

これは結論から言うと、取り戻せなかったです。

買い手は、男女の事情について善意でした

男は、自分の登記じゃないことをわかっていながらしばらくの間、何もしていなかったため、所有権を対抗できなかったのです。

本来、男の家なわけですが、登記が女の名義になっています

ここに「虚偽の外観」があります

買い手は善意の第三者ですので、

男は「不実の登記を承認していた」とされます。

ここで、重要なポイントがあります。最も重要といっても過言ではありません。

今回の登記ですが、

男には登記を移す気はありませんでした

女が勝手に登記を移しています


つまり、登記においては虚偽の外観が作り上げられているのですが、

男女はあくまでも通謀していません。

二人で打ち合わせて登記を移しているというわけではないのです。

94条が適用されるには登記を移す承諾をするなど「通謀」が必要である

まず、94条では通謀が必要です

通謀は、「相手方と通じてした」です。

お互いの了解が必要なわけです

財産隠し」とかで登記を形式的に移すことがあるんですが

ようは、2人で話し合い、2人の合意がなければいけないということです。

これがないと94条に当てはまりません。

要件を満たさないということは「適用」にならないのです

94条が成立しない。では、どう処理するか?

「類推適用を認める」という事は、「第三者に対抗できない」という2項の条文を生かすことなので、「取引を認める」という意味で、第三者を保護する結果になります

通謀がないので適用できないで終わりでもいいんです。

残念ながら、もう取り返せません。

でもいいんですが、それだと男がかわいそうです。そもそも、家持ってても登記なんてあんま意識しませんからねえ

一方、不動産の買主に、すみませんなかったことに…となってもいいんですが、一律に不動産が流通しなくなる(かもしれない)ので、どう処理するか?を裁判所が判断したわけです

こういう価値判断の場合、両者の立場を検討することが大切です。

まず、第三者からすれば、

取引上、重要なことは登記がどうなっているかであり、

登記の変化の経緯、つまり、男女のやりとりなんかは
買い手からしてみれば知ったこっちゃないことです

登記が変わっているのに、放置しているということは、通謀のような合意まではしてないかもですが

元に戻す手続きをしていない以上、状況としては似たようなものだというわけです

いっぽう、真の所有者からすると

何も了承してないよ、と

そもそも登記なんてよくわかりませんしね

買ったの自分だしって感じですよね

放置してたから合意だと思われる?は?勝手に売っといてなんでこっちがわざわざ手続きしなきゃいけなんだと。

通謀があった時のみに限定してしまうと
今回のような細かい事情のときに困ります

判例いわく

不実の登記が知らない間に他人によってなされていた場合、不実の登記を知りながら明示または黙示に存続させていたときは94条2項を類推適用する

このように、必ずしも通謀に限らず

取引の安全が確保されるように、原則を修正する形で類推適用をしていきます

なお、類推適用を認めるという事は、第三者に対抗できないという条文を生かすことなので、取引を認めるということで、第三者を保護するということです

類推適用と直接適用

今回のように通謀がないにもかかわらず、虚偽の外観ができている場合で

でも、虚偽の外観を知りながら何もしなかったのならば

94条を使って妥当な結論を導きたいです


これを直接適用と分けて、類推適用といいます。

明文にないのに、条文を適用することを広く「準用」といいますが

さらに、条文の要件を満たさないけど、条文の趣旨が及ぶときには類推適用といいます

94条において鍵となるのは「虚偽の外観」です。虚偽の外観があると類推の基礎があるということができます

買主の保護はどこまで認めるのか?

虚偽の外観がどうやって作られたのか細かい事情によって、
買い手の保護とのバランスを取るか判例でも判断されているので

続いて、外観が作られた事情によって、買い手の保護をどこまで認めるのかを見ていきます。

外観が作られた事情というのは、この事例でいうところの男女の事情、とくに男性側です(本人といいます。)

本人に帰責性があるかという論点なのですが

ポイントは

男性が意図していたところの虚偽の外観がつくられているか

本件のように、虚偽の外観がつくられていることを知っていながら放置していたような場合、

放置していたことに責任があるものとして黙示の承認があるとみなされます

最判平18.2.23の事例

では、この場合どうでしょう。最判平18.2.23です。

男の立場を「本人」、女の立場を「相手方」、買主の立場を「第三者」とイメージして考えてみてください

本人は自分の不動産を賃貸するよう相手方に依頼しました。

相手方には不動産取引に必要な書類や実印をすべて渡し、相手方に任せきりにしていました。

第三者と賃貸ではなく売買契約を締結してしまいました。

これを知って、登記の抹消を請求します。

登記の手続きやら役所の手続きはとても面倒ですよね

あまりよくわからないし、書類も煩わしい。

そこで、登記済証や印鑑登録証明書など不動産取引に重要な書類の一切を渡してしまっていた場合

本来、勝手に取引されないように自分できちんと管理するものですので、本人に責任があると言えそうです。

判例も

虚偽の外観を知りながら放置したのと同じくらいの責任が本人にある

といいます。

これは、虚偽の外観作出自体には関与していませんし、その事実も知らなかったのです。

そして、相手方の裏切り行為の側面も強い

それでも、類推適用を認め、第三者に対抗することができません。

そのかわり、第三者には善意のみならず無過失も要求して、保護される第三者の範囲を絞ります

94条2項、110条の類推適用により、善意無過失の第三者に所有権を対抗することができない

これは、善意であれば十分だった第三者に無過失も要求しようということです。

そのため、94条2項を引っ張ってくるだけでは足りないので、無過失の要件のために表見代理の規定である110条も引っ張ってきて類推適用するのです。

(この事例は、もともと相手方が代理人でした。ただ、一度自分に登記を移し、第三者に売却するときには、売主となっているため、表見代理の規定は直接適用できないので、こちらも類推)

また、代理に関する事実が全くないような場合、類推の基礎がないので、「法意に照らし」というような表現をすることがあります。(最判昭43.10.17

まとめ

不動産取引は高額な取引ですから不自然な点がないか、第三者にはこの売買契約が本当に有効なものであるのかをチェックする必要があるといえます

そこで、第三者がとくにチェックしていないと、確認を怠った過失となるのです。

類推適用というのは、法律構成というもので、実務家にとっても研究者にとっても最も重要です。

法律を実務で使いたいのであれば、ここは結論を暗記してはいけないところで、確実に理解すべきところかと思います。