今回は氏名を冒用されて訴訟が提起され、
裁判所が、氏名冒用の事実について気づかないまま判決までしてしまったという判例(大審院判昭10.10.28)です。
判例の争点と教科書などの問題意識がすこし違うところがあるのでわかりにくくなっています。
判例の争点は、氏名冒用されたままの判決が再審事由にあたるか?ですが
一般的な問題意識は、「当事者はだれになるのか?」という当事者の確定です
氏名冒用されたまま判決がなされたことは再審事由に当たるか?
タイトルの通り、判決後に氏名冒用が発覚した事例で
裁判所が氏名冒用に気づかなかったというもの。
※控訴審では、訴えを却下されていたため、上告し、破棄差戻し(原告勝訴)となりました。
結論としては、氏名冒用されたまま判決がされたことは、再審事由に当たります。(338条1項3号として)
そのため、被冒用者は、上訴、再審によって判決の取消しを求めるべきである」
これが判例の結論ですが、この結論を導くプロセスにおいて
当事者の確定が問題となっています。
氏名冒用された場合の当事者は誰か?
判例の論点としては、再審事由に当たるか?ですが、
おそらく試験をはじめ一般的には、このような場合、だれが当事者で、既判力は及ぶのか?という問いかけのほうが自然なので、
これに対して答えると、
「被冒用者が、訴訟当事者になり、被冒用者に判決の既判力が及ぶ」という処理をしていきます。
したがって、判例の論点のように判決確定後は、再審の訴えを提起することができることになるのです。
※判決確定前は上訴
氏名冒用訴訟判例の考え方
判例は旧字で読みにくいですが、読んでいくと次のように理解できます。
訴訟行為が、冒用者の行為としてなされた場合、判決は冒用者のみに及び、被冒用者には及びません。
これは、他人の氏名を使っただけで、行為は冒用者であると考えられるからです。
これに対して、本件の場合、当事者名義の委任状を偽造しています。
実際に動くのは冒用者や訴訟代理人でもそれも被冒用者とされる仕組みを利用しているのです。
判例は、この点を、考慮した紛争解決のための妥当な結論を目指したものです。
しかし一方で、批判もあります。
前者は表示説、後者は行動説を採用していると思われ、矛盾があり、当事者確定の基準とはなり難いあいまいな部分があります。
この辺りが実務と学説の衝突になってきます。
「再審の訴えを強制されるのは、過度な負担である」という批判もやはり存在はしていますし、頷けます。
訴訟係属中に氏名冒用が判明した場合
このような場合、原告側の冒用と被告側の冒用に分かれます。
原告側の場合
・訴えが不適法となる
・被冒用者の追認により、当事者を改めて手続きを続行することになる。
被告側の場合
・冒用者を排除して被冒用者を手続きに関与させる措置をとる必要がある。
・被冒用者の追認があれば、それまでの訴訟を有効として続行する。
当事者の確定は妥当な結論が前提にあります。
どのような説明をするかは本来は難しい話なので、実質的表示説で十分です。
結局、事案の場合分けと処理が大変で、訴訟係属前か後か、判決前か後か、4場面(実質3パターン)で具体的な事実を拾って当てはめれば良いです。
というわけで、以上です。ありがとうございました。