「違法性の承継」といわれる論点は、行政法と刑事訴訟法ででてきます。
ふたつは異なるものですが、一般的にはいまひとつ理解されていない気がします。
今回はふたつの違いに注意を払い検討していきます。
※一文が長くなりますのでスマートフォンの方は横画面にしていただいた方が読みやすいかもしれません。
違法性の承継とは?
違法性の承継とは、
「ある行政行為に違法事由の存することが、その行為を前提としてなされる別の行政行為の違法事由となるという関係にある場合、先行行為の違法性が承継されること」
をいいます。
刑事訴訟法においても一般に多くの人が違法性の承継と認識しているものがありますがこれとは異なります。
刑事訴訟法における違法性の承継とのちがい
行政行為の違法性の承継に対し、刑事訴訟において違法性の承継といわれるものは、
先行手続と後行手続が全く関係のない独立した手続である場合でも、政策的に違法性が承継されるという一つの現象です。
「違法性の承継」という明確な定義ではなく、違法が承継されるという点に注意が必要です。
違法性の承継の論点とは?
刑事訴訟法では違法性を正面から問うのに対し、行政法における違法性の承継は、先行行為の有効性の問題です。
処分には公定力が生じるため、処分の取消訴訟によらない限りその効力を否定できず有効なものとして残ります。しかし、これを違法であるとして問擬します
先行行為が「処分」でなければこのような問題は生じません
なぜ、「違法性の承継」が問題となるのか?
先行処分の違法を後行処分の抗告訴訟において主張できるか、という問題はなぜ生じるのでしょうか。
それは、端的に言えば、公定力があるからです。
公定力があるがゆえに、後行行為は適法となっており、後行行為を争うことができないため、先行行為を争わなければならないのです。
※(出訴期間の制限による不可争力もある)
もし、ふたつの処分が独立したものではなく地続きの場合、先行処分が有効であることが、後行処分の適法要件となっていることがあります。
そうすると、公定力があることによって有効とみなされた行為によって後行処分が適法なものとなるという先行行為の適法性に支えられた関係になります。
この土台を叩けば後行行為は崩れ落ちるというわけです
なぜ違法性の承継を認めるのか?
違法性の承継を認める必要があるのかというと、先行行為に対する出訴期間の制限を緩和させるためです。
公定力があることによって有効とみなされた行為によって後行処分が適法なものとなっているので先行行為の有効性を否定しなければならないのです。
逆に言えば、このような連続した手続、の関係になっていることが違法性の承継を認めるための要件となるということです。
行政行為に公定力があるのは法律関係の早期確定のためでした。違法性の承継を認めればこれを否定することになります。
そのため、それだけ強く結びついた手続上の関係が必要です。これが刑事訴訟法との大きな違いとなります。
判例
(最判平21.12.17)の判例は、違法性の承継を認めました。
事案は、
安全認定の効力によって東京都建築安全条例4条1項の適用が排除され、建築確認の要件を具備する結果になるという事案でした。
安全認定の効力が否定されれば、建築確認がその適法要件を欠き、違法になるという関係があります。
安全認定の違法が、そのまま建築確認に「承継」されるわけではありません。
その他の例として、
一般に違法性の承継の問題とされている課税処分と滞納処分、事業認定と収用裁決の関係もありこれらも同様です。
「先行処分の違法が後行処分に承継される」という表現は、
「先行処分が違法であることからその効力が否定されることによって、後行処分の適法要件が欠けることになるために、結果的に後行処分も違法になること」といえます。
取消訴訟の排他的管轄と出訴期間
行政行為の公定力、出訴期間の制限という趣旨を重視すれば、違法性の承継は否定されることになるのが原則です。
そのため実際には、
実体法的観点と手続法的観点から、具体的事情に即して違法性の承継を肯定することができるかを論じていく必要があります。
実体法的観点とは、先行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか?
手続法的観点とは、先行処分を争うための手続的保障が十分か?
という観点です
実体法的観点
手続法的観点
と、判例を読む際も、事案を分析するときも、このようにふたつの観点を検討することになるのです
というわけで、今回は以上になります。
お読みいただきありがとうございました。