留置権の牽連性とは?事例や要件を分かりやすく解説【判例あり】

今回は、意外と見落としがちな「留置権」についてです。

留置権は、わかったようなわからないようなかんじだと思うので、解説していきます。

※スマートフォンの方は横画面にしていただくと読みやすいかもしれません。

留置権とは?

留置権とは、他人の物を占有している場合、代金を支払ってもらうまで(債務の弁済を受けるまで)、物を返還をせずに留置できるという権利です。

お客様が代金や費用など支払わない場合、預かりモノなどを引換えにお渡しするはずです。

そのようにして、債務者に対して、プレッシャーを与え、間接的に弁済を促す効果がある権利をいいます。

» 「質権とは?転質や抵当権との違いをわかりやすく解説」はこちら

留置権の要件とは?

要件をサッと確認してみると、次の4つです。

▣ その物について生じた債権を保全すること

▣ 債権が弁済期にあること

▣ 他人の物を占有していること

▣ 占有が不法行為でないこと

担保物権ですので、保全するべき債権の存在と、物の存在が必要です。

注意すべきは、適法な占有という点です。

留置権の事例とは?

留置権では、担保物権として物が取引にでてきます。

留置する物は何か?、どのような債権を担保するために留置権を主張するのか?ということに注意してください

それでは、留置権の事例を紹介します。

これは、宅建士試験の2013年第4問です。

【問4】 留置権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1.建物の賃借人が賃貸人の承諾を得て建物に付加した造作の買取請求をした場合、賃借人は、造作買取代金の支払を受けるまで、当該建物を留置することができる。答え.✕;留置することはできない。

造作物買取り請求をしているため、建物の明渡しの場面です。

被担保債権は、エアコンとかの造作について発生した債権です。建物から発生しているわけではありません。

最判昭29.1.14)

2.不動産が二重に売買され、第2の買主が先に所有権移転登記を備えたため、第1の買主が 所有権を取得できなくなった場合、第1の買主は、損害賠償を受けるまで当該不動産を留置することができる。

答え.✕;留置することはできない。

二重譲渡の場面です。

最判昭43.11.21によると、

損害賠償請求というのは、引渡し請求権(あるいは移転登記請求権)がかたちを変えたものです。

したがって、「建物自体」に生じた債権ではないという理屈です。

3.建物の賃貸借契約が賃借人の債務不履行により解除された後に、賃借人が建物に関して有益費を支出した場合、賃借人は、有益費の償還を受けるまで当該建物を留置することができる。

答え.✕;留置することができない。

借主は債務不履行により解除されてます。

これは家賃滞納でしょうか。占有権原を失った場合、不法な占有になってしまいます。

留置権が成立するには、留置する物の占有が不法でないことが必要です。

最判昭46.7.16, 最判昭41.3.3によると、

このような場合は、295条2項を類推適用します。

4.建物の賃借人が建物に関して必要費を支出した場合、賃借人は、建物所有者ではない第三者が所有する敷地を留置することはできない。

答え.〇です。

これはわかりやすいかと思います。

建物の費用償還請求権ですので、借地(土地)に生じた債権ではありません。

したがって、留置権は成立しません。そして、問題文が、「留置することができない」となっているので正解です。

ここでのテーマは、「その物について生じた債権」といえるかどうか?です。

物とは、建物です。その物について生じた債権と言えれば、留置権が成立し、留置することができます。

留置権の本質とは?

留置権の本質とは、「債務の弁済を促す」という点です。

商品であれば、返してほしいので、「物を留置することで、債務の弁済を促すという機能が果たされる」と考えます。

「必要費・有益費」は、留置権が成立し、造作物の費用は留置権が成立しませんでした。

この違いは何でしょうか。

これは、「費用が発生する原因となる事実関係」に注目するとよいです。

賃借人の必要費、有益費は建物じたいから発生しましたね。

貸すものとして責任がありますから、必要費・有益費に含まれる設備や管理費というものは、建物という「商品」として組み込まれていきます。

一方、造作物は「商品」として読み込まれてなかったものを新たに取付けることになります。

建物は借り物ですので、追加した部分は商品というわけではなく組み込まれていかないのです。(もっとも、造作物を有益費として主張する構成も考えられますが)

※なお、留置権が認められた場合、「引換給付判決」がなされます。

留置権の成立を認めた判例まとめ

留置権の成立を認めた判例と認められなかった判例をまとめていきます。

試験対策にもなるかと思いますのでどうぞ。

留置権が成立し、行使できる場合

・未払代金に対して目的物の留置(最判昭47.11.16)

・仮登記担保権者の未払い清算金債権に対して土地の留置(最判昭58.3.31)

・譲渡担保権者の清算金債権に対して目的物の留置(最判平9.4.11)

・建物賃貸借において、必要費償還請求権に対して建物留置(大判昭14.4.28)

・建物賃貸借において、有益費償還請求のための家屋の留置(大判昭10.5.13)

・建物買取請求権の代金債権と家屋の留置(大判昭14.8.24)

留置権が成立せず、行使できない場合

・借地上の建物を借りてる場合、必要費・有益費償還請求のための家屋の留置

・造作買取代金債権と家屋の留置(最判昭29.1.14)

・二重譲渡による履行不能に基づく損害賠償債権と目的物たる敷地の留置(最判昭43.11.21)

・他人物売買の買主が、真の所有者から返還請求を受けた場合の売主に対する債務不履行に基づく損害賠償債権と目的物の留置(最判昭51.6.17)

・譲渡担保権者により目的物を売却された設定者の損害賠償債権と目的物(最判昭34.9.3)

・留置が不法占有となるとき

というわけで、今回は以上です。

お読みいただきありがとうございました。