今回は、相殺です。
改正のポイントはこちら
・相殺制限特約は、第三者が悪意・重過失なら対抗できる
・相殺の一律禁止から一部禁止へ
・差押え後に取得した債権は、差押え前の原因によって生じた債権であれば相殺できる
・相殺充当の合意がなかったときは、相殺適状となった順に消滅する
相殺制限特約は、第三者が悪意・重過失なら対抗できる
相殺を制限する特約については、第三者が特約について悪意・重過失である場合、対抗できます。こちらは単純。
① (略)
② 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
新:第505条
① 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
② 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
相殺の一律禁止から一部禁止へ
不法行為に基づく損害賠償請求権一般を受働債権とする相殺を禁止していました。
改正によって、以下に基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺のみ禁止するようにしました。
・悪意による不法行為
・生命・身体の侵害
したがって、相殺できない範囲が限定されます。
さらに、このような債権を譲り受けた場合は、もはや禁止されないとしています。
債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。
新:第509条
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
1.悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
2.人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
差押え後に取得した債権は、差押え前の原因によって生じた債権であれば相殺できる
判例(最判昭45.6.24)によると、
「自己の有する債権が、差押え前に取得したものである限り、第三債務者は弁済期を問わず、相殺を対抗できる」とされていました。
これは無制限説という立場で、実務でも確立されていたものでしたのでそのまま明文化。
さらに、差押え後に取得した債権であっても、その債権が発生する原因(契約等)が差押え前であれば相殺を対抗できることも明文化されました。
ただし、この債権が譲渡されるなどした場合の第三債務者は相殺を対抗できません。
なぜ相殺が許されるか?
差押権者からすれば、反対債権の弁済期が、自身の差押えより後ならば、保護に値しないのではないか?という意見ももっともです。
ただ、相殺というのは本来、弁済のかわりに手を打とう、というような意味合いでしょう。
これは弁済を受けるのと同じような状況となりますので、相殺には担保的な機能がはたらいています。
このような相殺の期待は弁済期の遅い早いとはあまり関係がありません。
そのため、判例でも相殺ができないという不利益の方が大きいと評価して、相殺を認めたのです。
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。(改正後の①)(新法第2項は新設)
新:第511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
① 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
② 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。
ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
相殺充当の合意がなかったときは、相殺適状となった順に消滅する
こちらもそのままなんで単純でわかりやすいです
第488条から第491条までの規定は、相殺について準用する。
新:第512条(相殺の充当)
① 債権者が債務者に対して有する一個又は数個の債権と、債権者が債務者に対して負担する一個又は数個の債務について、債権者が相殺の意思表示をした場合において、当事者が別段の合意をしなかったときは、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺に適するようになった時期の順序に従って、その対当額について相殺によって消滅する。
相殺は変化が少ないのでよかったです。
というわけで、以上です。お読みいただきありがとうございました。