今回は酒類販売業免許制事件(最判平4.12.15
)です。
酒類販売業免許制事件の事案とは
原告は、税務署長に対して、酒販業の申請を行ったが、申請に対する拒否処分を受けました。
処分の取消訴訟を提起しました。
酒税法において、税務署長は免許を与えないことができると裁量の規定があり経営の基礎が薄弱であると認められる場合を拒否事由として掲げられていました。
控訴審で、これらの規定が酒販業を免許制度とする趣旨が職業選択の自由を奪い、憲法22条に反しないか問題となりました。
原告の控訴は棄却され上告しました。
酒類販売業免許制とは?
酒類販売業免許制は、行政上、「許可」というものに当たります。
免許と許可は日常的には同じ意味合いで使うと思いますが、行政上では正確には異なり
酒類販売業免許制でいう免許は、「法律的行政行為」の命令的行為のうちの「許可」で、行政庁が国民に対して、義務を命じ、又は除去する行政行為です。
酒類販売業免許制は憲法22条に反しないか
憲法22条1項は職業選択の自由を保障する規定でした
酒類販売業免許制は許可制にあたるので
お酒の販売業は、行政の許可がなければ仕事をすることができないものとして、「職業選択の自由」が制約されています。
これは、憲法に反しないのでしょうか。
そもそも許可制は22条1項に反しないか?
判例としては、お酒の販売業について免許制を敷いて規制している法律は、立法府の裁量の範囲内であるため裁量の範囲を逸脱し著しく不合理である場合に憲法に反するとしました。
判例いわく
「許可性は、原則、重要な公共利益のため必要かつ合理的措置であることを要する。
そして、租税法定立については、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るため、立法府の政策的な判断に委ねられ、裁量の範囲を逸脱し著しく不合理でない限り、22条1項に反しない」
免許などは、国民全体のためにも、立法府の政策的な判断であれば認められることになっています。
当判例は二段階先をいってるので一つずつクリアにしていきます。
まず、許可制のひとつである免許制を敷くこと一般が憲法に反するかです。
許可制の採用は憲法上許されるか?は先程確認したところで裁量の範囲であればよいということです。
次に、「酒類販売に対し」、許可制を採用することが許されるかです。
酒類販売業への免許制採用は許されるか?
酒類販売業を営むために許可制を敷くことは許されるでしょうか。
租税徴収するという政策と関わっている点です。
政策ということは、専門技術的な判断に依らざるを得ないです。
そのため、司法にできることは裁量の範囲を逸脱したのかどうかという点について審査することのみ
という流れとなります。
酒類販売業免許制事件の判断基準とは?
では、本件のように酒類を販売する事業に、免許制を敷くことは合理的な裁量の範囲内といえるでしょうか?
これは、消費者のためではなく、税金の徴収とそれに伴い、ほかの事業者を保護するために必要であると説明されます。
判例いわく
「酒類免許制は、酒税負担を消費者へ円滑に転嫁するため、これを阻害する業者を排除するものであるから、納税義務者である酒類販売業者のための合理的措置であるといえる」
税金というのは国家運営のために必要なものです。
ここでは立ち入りしませんが、とりあえず国家運営には必要な資金を広く薄くみんなからお金を集めるという集団投資スキームが税金というかたちで制度化されています。
小売を考えるとわかりやすいです。消費税というのは、「国家-事業者-消費者」という関係で納められています。
つまり、国家と店舗などの事業者、店舗などの事業者と消費者で2回の移動があります。
消費税は国民が負担しているというのはだれもが思っていますが、実際にはわたしたち消費者は、国家に対して納税しているわけではありません。
店舗が消費税を含めて価格に乗せており、国家は店舗に対して、売上の多い少ないによって課税しているというのが正確なところです。
こうした、事業者を通した徴収がなされるのが間接税といわれる仕組みで税の「転嫁」といいます。
納税義務者と実際の納税支払者が異なるという特徴があります。
そうすると、ある問題がでてきます。
税金の滞納(未収)です。
酒類販売業免許制事件における事案のポイント
本件酒類販売業免許制事件の事案のポイントは、酒販業を認める条件に経営の基礎薄弱を掲げた点にあります。
要件に経営の基礎薄弱を掲げたことが職業選択の自由を侵害するかが問われました。
庫出税(くらだし)といわれ、最終的に消費者が負担する酒税に関し、酒類の製造業者が出荷したときに納税義務を負わせ酒販業者が酒税を上乗せして消費者に販売し回収するというしくみです。
本来の負担者である消費者であるのですが、酒税を納付するのが製造業者となります
そして、この間に酒販業者がいる構図です。
製造業者が納付した税金分のお金を円滑に回収するためには酒販業者の健全な経営が不可欠となります。酒販業者が潰れれば回収不可となります。
正確には国家は納付を受けていますが、義務者の負担が国家に流れていないことになります
消費者が商品・サービスを受け、消費税分を支払ったとしても、店舗が消費税を納めなければ、納税しても国家としては税金が徴収できていないことになります。
店舗には消費税を支払うことができないとこうしたバグが発生することになるため、税法では負担力のある経営、財務基盤の弱い納税できなくなるような事業者をはじいていくようにしており、そのために採用された制度が「免許制」です。
「…酒類販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、酒税の負担の円滑な転嫁を阻害するおそれのある酒販業者を免許制によって排除することとした。…」
ここで、このような仕組みは、職業選択の自由を考えると最小限にしたい価値判断があります。徴収される税金の大半が酒税であるという場合は重大な問題となるため、免許制とするべきかもしれません。
一方、かりに酒税が税金の占める割合がごくわずかで、徴収できなくても全体の歳入に変わりがないのであれば、免許制の目的に対する免許制の意義は薄くなります。
判例ではしくみとしては合理性をまだ失っていないといっていますが、酒税が国税全体に占める割合が高く確実に徴収する必要性があるという事実に着目しています。
「酒税の国税全体に占める割合が相対的に低下するに至った本件拒否処分当時の時点においてもなお酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ合理性を失ったとはいえない。」
酒類販売業免許制事件の反対意見
これに対して、坂上裁判官の反対意見があります。
当時の価値判断として、酒税の国税全体に占める割合が高く、厳しい財政事情の下に税収確保が重視されたにすぎないと言っています。
また、酒販業の免許制度採用する前後で、酒税の滞納率に顕著な差がみられないという事実を指摘して、免許制を敷く必要性及び合理性は肯定できないとしています。
さらに、本来消費税分が付加されている販売代金の回収は製造業者の責任においてなされるべきで、酒販業の許可をもって実現すべきものではないと指摘しています。
これはたしかにもっともなことです。この辺はべき論とリアリティの隙間で、理論と実務、司法と立法のちがいであり、埋まらない距離でもあります。
このように、議論が白熱していますが、こうした立法事実を争うケースは、薬事法事件判決を契機として増えていきました。
変化の激しい近年ではもはや当たり前になりつつありますが平成初期はちょうど過渡期のため顕著です。
余談ですがとくに、医療訴訟の医学的知見の時期、原発訴訟の科学的技術水準の判断時期は試験でよくみかけます。
立法府の判断を争う際、立法ができた時と裁判の時ではタイムラグが発生します。
立法当時存在していた事実が裁判時においても存在するのか重視して憲法判断を行おうとす判例は増えています。
例えば、「非嫡出子の嫡出性の有無による法定相続分差別の事件」(最判平25.9.4)があります。夫婦別姓、国籍法違憲判決などもそうですかね
あまり、出題機会は少ないですが、背景や時代の特徴も反映された重要な判例です。関連する判例も多くありますので一度ゆっくりみておくとおもしろいとおもいます。
ということで今回は以上になります。お読みいただきありがとうございました。