行政法の原告適格とは?わかりやすく判例解説

今回は多くの判例がある原告適格についてです。

難しいことはあまりないのですが、一部こまかいところが理解されないままのことが多く見受けられるところです。

判例もたくさんあり覚えるのもたいへんなため、すこしでも理解を深めていくのがよいかとおもいます。

処分の相手方以外の者の原告適格とは

行訴法9条2項によれば、法律上の利益を有する者に原告適格が認められるとされます。

法律上の利益を有する者とは、処分により、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者のことを言います。

(原告適格)
第9条① 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる
また、行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨も含むという場合には、かかる利益も「法律上保護された利益」に当たる。
(原告適格)
第9条
② 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。
 この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

そして、このような考慮されるべき利益に当たるかどうかを判断するためには、どのような利益が保障されているのかを考えます。

法令にもさまざまな目的があります。そして、一定の行政権行使に制約を課していますが、法律上の利益に当たるものは、

私人の個人的利益を保護するために行政権行使に制約を課している結果、保障される利益のことをいいます。

公益の保護を目的とする法令が行政権行使を規制した結果、保護されることとなる利益は、いわば偶然の反射的利益として法律上の利益には含まれないといいます。

※こうして、法律上の利益が、あまりにも拡がりすぎないよう、「個別的利益として保護すべきもの」に限定しています。

『法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、法律上保護された利益とは、当該行政処分の根拠となった法規が、私人等の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障される利益であって、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである。』
(最判昭53・3・14民集三二・二・二一一〈主婦連ジュース事件〉)

直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲

原告適格の趣旨は、訴訟提起できるひとを限定することですが、とくに、もんじゅ事件ではある程度の範囲基準を示しました。

処分の根拠である行政法規の趣旨・目的、行政法規が保護しようとする利益の内容・性質を考慮すべきであるといいます。

そして、原子炉を規制する法令は、公衆の安全という公共の利益だけではなく、原子炉施設周辺に居住し、事故があった際に、直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の安全を個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含んでいると評価しました。

そのため、このような範囲に居住する人たちには法律上の利益があるという結論となります。

その住民の範囲は、当該原子炉の種類、構造、規模といった具体的な条件を考慮に入れた上で、居住する地域と原子炉との距離関係を中心に判断すべきものとしています。

『核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律二四条一項三号[現二号]所定の技術的能力の有無及び四号[現三号]所定の安全性に関する審査が許可の要件として設けられた趣旨、右各号が考慮している被害の性質等に鑑みると、各号は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含み、その住民の範囲は、当該原子炉の種類、構造、規模等の当該原子炉に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該住民の居住する地域と原子炉の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らし、合理的に判断すべきものである。』
(最判平4・9・22民集46・6・571〈もんじゅ訴訟〉)

※こうして、法律上の利益が、あまりにも拡がりすぎないよう、「直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲」に限定しています。

処分の根拠である行政法規から容易に読み取れないような場合

このような場合、根拠となる行政法規に定められていないからといって、ただちに検討を終えるのではなく、

処分の根拠である行政法規と目的を共通にする関連法令の趣旨・目的も参酌すべきことになります。

また、処分により害されることとなる利益の内容・性質、侵害の態様・程度も勘案すべきとされます。

小田急事件 最大判平17.12.7

本件では、関連法令の趣旨・目的から被害の発生防止を引っ張り出します。

そして、被害の発生から被害を受けないという利益に裏返し、発生範囲が一定範囲の人間に限られることから個別的利益として導き出します。

このあたりがかなりテクニカルな理屈づけをしています。

『9条2項を踏まえ、都市計画法の規定に加えて、公害対策基本法及び東京都環境影響評価条例の規定の趣旨及び目的をも参酌すれば、都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定は、事業に伴う騒音、振動等によって、周辺住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止することも、その趣旨及び目的とすると解される。
 そして、違法な都市計画を基礎として都市計画事業の認可がされた場合に、騒音、振動等による被害を直接的に受けるのは一定範囲の周辺住民に限られ、その被害は健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないことに照らせば、そのような被害を受けないという利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難である。
 したがって、都市計画事業地周辺に居住する住民のうち、当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業認可の取消訴訟における原告適格を有する。』
(最大判平17・12・7民集59・10・2645〈小田急高架化訴訟上告審(原告適格)〉

原告適格の参考判例

どのような利益が「法律上保護された利益」に当たるのか?さまざまな立場の第三者が原告になろうとしています。

林地開発許可事例(最判平13.3.13)

開発許可に対して、取消を求める開発区域「周辺住民」
生命・身体の安全の利益は
法律上保護された利益に当たるとしました。

『林地開発許可に基づく開発行為によって起こり得る土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する。』
(最判平13・3・13民集55・2・283)

総合設計制度事例(最判平14・1・22)

総合設計許可・都市計画許可に対して、取消を求める「近隣住民」
生命・身体の安全、財産上の利益は
法律上保護された利益に当たるとされました。

『建築基準法59条の2第1項に基づく総合設計許可について、当該総合設計許可に係る建築物の倒壊、炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は、その取消しを求める法律上の利益を有する。』
(最判平14・1・22民集56・1・46)

『総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者は、総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する。』
(最判平14・3・28民集56・3・613)

公衆浴場営業許可事例(最判昭37.1.19)

競合の新規許可に対して、取消を求める「既存の公衆浴場業者」
既存業者の営業上の利益
法律上保護された利益に当たるとされました。

『公衆浴場法の許可制は、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとするものでもあり、適正な許可制度の運用によって保護せられるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益にとどまらない。』
(最判昭37・1・19民集16・1・57)

病院開設許可事例(最判平19.10.19)

病院開設許可に対して、取消を求める「既存の医療法人」
他施設開設者の営業利益は
法律上保護された利益に当たらないとしました。

『医療法7条に基づく病院の開設許可について、同病院の開設地の付近において医療施設を開設し医療行為をする医療法人等は、取消しを求める法律上の利益を有しない。』
(最判平19・10・19判時1993・3)

史跡指定解除事例(最判平元.6.20)

文化財保護の指定解除に対して、取消を求める「学術研究者」
学問研究上の利益
法律上保護された利益に当たらないとしました。

『文化財保護法及び静岡県文化財保護条例に基づく史跡指定解除処分に対し、遺跡を研究の対象としてきた学術研究者はその取消しを求める法律上の利益を有しない。』
(最判平元・6・20判時1334・201〈伊場遺跡保存訴訟〉

主婦連ジュース事件(最判昭53.3.14)

商品の表示に関する認定に対して、不服を申立てる「消費者」
景表法の規定の適正な運用によって得られるべき消費者利益
法律上保護された利益に当たらないとしました。

『不当景品類及び不当表示防止法の規定により一般消費者が受ける利益は、公正取引委員会[現在は消費者庁が所管]による同法の適切な運用によって実現されるべき公益の保護の結果として生じる反射的な利益ないし事実上の利益である。』
(最判昭53・3・14)

特急料金の認可事例(最判平元.4.13)

特急料金の値上げの認可に対して、取消を求める「特急利用者」
通勤定期を購入して利用する利益は
法律上保護された利益に当たらないとしました。

『地方鉄道法21条による地方鉄道業者の特別急行料金の改定についての認可処分に対し、当該路線の周辺に居住し通勤定期券を購入するなどしてその特別急行列車を利用している者は、その取消しを求める原告適格を有しない。』
(最判平元・4・13判時1313・121〈近鉄特急事件〉

公有水面埋立て免許事件(最判昭60.12.17)

公有水面埋立て免許・埋立工事の認可に対して、取消を求める「漁業組合員」
漁業を営む利益
法律上保護された利益に当たらないとしました。

『公有水面埋立法改正前四条には、埋立水面の周辺の水面において漁業権を有するにすぎない者を保護することを目的として、埋立免許権又は竣工しゅんこう認可権の行使に制約を課している明文の規定はなく、また解釈からかかる制約を導くことも困難である。』
(最判昭60・12・17判時1179・56〈伊達火力発電所事件〉)

新潟空港騒音事件(最判平元.2.17)

定期航空運送事業免許の付与に対して、取消を求める「周辺住民」
健康・生活上の利益
法律上保護された利益に当たらないとされました。

『当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関連規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきである。』
(最判平元・2・17民集43・2・56〈新潟空港事件〉

『新たに付与された定期航空運送事業免許に係る路線の使用飛行場の周辺に居住していて、当該免許に係る路線を航行する航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する。』
(最判平元・2・17)

・鞆の浦訴訟(広島地判平21.10.1)

公有水面埋立免許の認可に対して、差止を求める「周辺住民」
景観を享受する利益
法律上保護された利益に当たる

風俗営業許可事例(最判平10.12.17)

風俗営業許可に対して、取消を求める「周辺住民」
一種住居専用地域で保護される生活環境上の利益
法律上保護された利益に当たらないとされました。

『住居集合地域においてなされた風俗営業の許可について、当該地域内の近隣住民はその取消しを求める法律上の利益を有しない。』
(最判平10・12・17民集52・9・1821)

サテライト大阪事件(最判平21.10.15)

原告は場外車券発売施設設置許可に対して、取消しを求める「周辺住民」及び「医療施設開設者」
生活の安全又は円滑な業務を営む医療開設者の利益
周辺住民の利益は法律上保護された利益に当たらない、
医療施設開設者の利益は法律上保護された利益に当たるとされました。

『自転車競技法に基づく場外車券発売施設の設置許可の取消訴訟につき、当該場外施設の設置、運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる医療施設等の開設者は、位置基準を根拠として原告適格を有するが、それ以外の周辺住民、事業者および医療施設等の利用者は、位置基準及び周辺環境調和基準のいずれを根拠としても、原告適格を有しない。』
(最判平21・10・15民集63・8・1711)

東京12チャンネル事件(最判昭43.12.24)

競願となり他の者へ付与された免許処分に対して、取消を求める「放送免許の申請を拒否された者」
法律上保護された利益に当たるとしました。
※訴えの利益

『競願関係において免許処分と拒否処分が表裏の関係にある場合には、拒否処分を受けた者は、競願者に対する免許処分の取消しをも訴求し得る。』
(最判昭43・12・24民集22・13・3254〈東京12チャンネル事件〉)