DES(デッドエクイティスワップ)における債権価額はどう算定すべきか?

業績が悪化して債務超過におちいった企業から債権回収を行う場合、
担保権を実行するよりも、企業を支援して継続させ将来的な収益から回収を図った方がよいと言う場合があります。

支援をしたくても融資の猶予をすれば不良債権が長期間帳簿に残ってしまうので、銀行ならば最悪です。

かといって、債権を放棄はできないし生じた損失を損金とする無税償却は、要件が厳格。

そこで、債権者が債権を放棄する(債務者の債務を免除)代わりに株式を取得します。

これを、DES(debt equity swap:デッドエクイティスワップ)といいます。

債務の株式化という意味でデッドは債務、エクイティは株式、スワップは切替えです。

債務者のメリットは税がかからず債務免除できる

株式には返済期限がないため、事実上返済猶予となります。

さらに、株主として会社の支配権を強めます

会社支援もでき、将来の株式価値向上による配当及び売却益で投下資本回収それ以上のリターンが見込めます。

他方、債務者の企業としても、税金の面で都合がよいです。

もし、債務者がDESの代わりに、「借入金の免除」をしてもらっていた場合、

「債務免除益」として税金のかかる「利益」が発生してしまいます

多くは私的整理をとりますがその場合、「債務免除益」に課税されてしまうのですが、DESの場合だと、債務免除益が発生しません。

これが債務者側としての大きなメリットです。
このような債務の株式化がデッドエクイティスワップ(DES)なのです

DESのしくみ

デッドエクイティスワップは、90年代後半から2000年代初期にかけての長期不況期に業績が悪化した中小企業に対する救済手段として注目されました。
(※中小企業に対して救済手段として注目された雪印の事例)

DESは、一種の法技術です。
だいたいは銀行ですが、債権者として、第三者割当てを引き受けてもらいます。

そこでは現金ではなく、債権を現物出資です。債権と債務が企業に属し、混同により消滅します。

こうすると、あたかも銀行の債権を株式に交換したかのようになり「債務の株式化」と呼ぶのです。

DESの根底には「帳簿価額が保証されている債権」と「将来的に価値の向上を見込める株式」を「等価である」という考えがあります。これを前提に、経済効果を狙った取引として交換します。

ここでは、「価値に対する評価に時間の概念が加わる」ため「ファイナンス」思考になるわけです。

これに対して、法律の思考は、やはり明確で客観的な基準を好みます

将来的な上昇という「いわば不確実な価値」というものを織り込みたくはありません。
というか、考慮したいけど説明が難しいというニュアンスです。

こうしてDESの場合、債権をいくらで評価するか?という壁が立ちはだかるのです。

株式数をいくら割り当てればいいか?に悩まされることになり、現状、判例では確立した答えはでていません。

債権の評価額は株式割当てをどうするか

DESの場合、現金でなく現物出資になります。

第三者割当て増資の際、現物出資でよいですが、取締役会決議事項です

通常、現物出資をする場合、そのモノが過大な評価をされないように、裁判所の選任した検査役による調査が必要です(207)

たかだか100万もしないような機械に替えて、1000万も融資などしないだろうし、逆にあれば、不正が想定されます。

そうすると、「債権の評価額」も検査しなければならないのですが

すでに債権の弁済期が到来していれば、
額面を返済して同時に同額を出資してもらっており、帳簿価額に等しいと考えることができます。そうであれば既存株主を害しません。

会社法では、金銭債権の価額が帳簿価額以下とされている場合には、検査不要としています。

これは、DESを促していると考えられています。

そこで、出資価額が金銭債権の額でよいとして悩ましい問題となるのは、株式の買取をどうするか?です。

当然、建て直しをはかる会社、1株当たりの価値は低く、債権の価額で素直に割当てを行うと有利発行の問題が生じうるのです。

裁判実務

さて、DESの場合、債権をいくらで評価したらいいでしょうか?

実は、DESが普及した原因として、裁判実務での判断はありました。

もちろん銀行も、支援した上での将来的な価値を見込んでいます。

しかし、現状では時価ですし、現実には、財務状態の悪化した会社の債権時価を評価しなければならずこれが難しいところ。

こうしたなか、裁判例では、検査役の調査に関して、時価ではなく、「券面額で評価して良い」という立場をとりました。

といっても、実際には、評価額か、券面額かというのは難しい問題です。

実際には券面額未満の価値しかないのに、券面額で評価して株式を割り当てるので、
その分だけ過剰な数の発行になり、既存株主を害するとの批判があります。

これに対して、券面額未満の価値しかないのであれば、会社は債務超過状態です。
もはや株式に価値はないので、害されるような利益を株主は有していないとも言えます。

さらに、株式はオプションとしての価値も有するので「将来的に上昇が見込める」というこのオプション価値をいったいどこまで保護するか?そもそも法的に保護すべきなのか?
など、この辺りはとても難しいところです。