今回は、共有林分割制限と財産権の保障というお話です。
森林法共有林事件(最高裁昭和62年4月22日)判例で数少ない法令違憲判例です。
こちらはわりと難しいという声がおおいところですが、なぜ難しいかというと
それは、積極目的でありながら消極目的の薬事法違憲判決を引用し、積極目的であれば明白性の原則に基づくのが本来であるにもかかわず、厳格な判断枠組みを提示したからです。実際に、学界でもざわつきました。
憲法29条2項に適合するかどうかが論点です。
森林法共有林事件の事案とは
原告は、生前贈与により被告とともに森林を共有していました。
この森林の経営方針につき被告と対立したため、分割を試みましたが、旧森林法は民法で認められている分割請求を否定する規定がありました。
旧森林法が共有物分割請求を否定していたため、これが財産権の保障を制約するものとして
憲法29条に反し違憲と主張し共有森林の分割請求しました。
旧森林法186条は共有森林の持分価格が2分の1以下の者には共有物分割請求権を否定していました。
本件違憲となりました。
本判決は5番目の法令違憲判決です。
森林法共有林事件では憲法29条に反するか
財産権の保障する範囲として、原則、社会経済的に重要となる個々の財産についても保障が及びます。
森林は有限な資源であり、社会的にも重要ですので森林法の趣旨としても社会的な側面から規制をかけているのですがそれでも本来は財産権の保障は及ぶという原則は重要です。
ただこれに対して、やはり権利自体に内在的制約があることに加えて、社会全体の利益を測るための制約もあるとしております。
そして、その規制が憲法に反するかどうかの基準は薬事法判決を引用しています。
薬事法判決は消極目的の事案でしたので、この事案の判断基準を使用している点に学界はざわつきました。
こうした学界の動向は大きく下記3つのフェーズに分けることができるのですがここでは触れません。
第一期、まずは規制目的二分論との整合性にフォーカスする時期
第二期、本件の事案に対して財産権の制約があるとした結論にフォーカスする時期
第三期、証券取引法事件判決がでてきたことから他の事案判決と比較しより深い考察にフォーカスする時期
森林法共有林事件の審査基準とは
さて、規制が、公共の福祉に適合するかどうかは、比較考量の天秤でした。
ただ、裁判所は三権分立のもと、役割分担が国家統治の基本のため、あくまでも立法府判断を尊重し、立法府の法規制についての判断(立法)が合理的裁量の範囲を超えている場合に違憲となるとするのが司法の立場です。
判例いわく
しかし、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから、
立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであつて、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。」
(最高裁昭和50年4月30日大法廷判決参照)
民法で共有物分割請求が認められているのは、共有によって発生する弊害を除去し、目的物を自由に支配することで目的物の経済的価値を発揮させるためです。
近代市民社会において、個人が重視されるようになってきた歴史的背景に基づき、所有という概念も原則は単独所有であり、共有であっても可能な限り単独所有と同じような支配のかたちをとるべきと考えられていきました
そのため、持分権の処分というのも認められていきます
共有物が性質上分割できないものでない限り、分割することも許容されるべきであり、
分割を権利として否定する(分割を規制する)法律は、財産権を制約するものとして憲法29条に反すると判断されるとしています。
森林法共有林事件の判断
本件森林法共有林事件では、原告の分割請求を認めました。
旧森林法186条の共有物分割請求を否定する規定は、立法目的を果たす手段として合理性、必要性を認めることができないため、立法府の合理的裁量の範囲を超え憲法29条に反し違憲であるという結論となりました。
原判決は、森林法186条は憲法29条2項に違反するものではなく、森林法186条に従うと、本件森林につき2分の1の持分価額を有するにとどまる原告(上告人)には分割請求権はないとして、本件分割請求を排斥しているため、原告敗訴部分の破棄差戻となりました。
というわけで今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。