準現行犯逮捕については勘違いが多いところです
条文の構造が一般に理解されておらず、意外と難しいとされています
※一文が長くなりますのでスマートフォンの方は横画面にしていただくと読みやすいかもしれません。
準現行犯逮捕の要件とは?
準現行犯逮捕の要件とは、端的には「現行犯人とみなされること」です。
条文では、準現行犯が規定されているのではなく、
「現行犯人」とみなす規定があります。
第212条【現行犯人】
② 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
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そして、これに当たる場合は、逮捕状無く、逮捕することができる「現行犯逮捕」と考えていきます
第213条【現行犯逮捕】
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
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これを講学上、準現行犯逮捕といっていきます。
あまりにも準現行犯逮捕という言い方が浸透し一般的になっているがゆえに
この構造を見落としてしまい難しく感じ試験でも問われるテーマになっているのでしょう。
現行犯逮捕とは?
現行犯逮捕とは、「現行犯人」を逮捕することで、
現行犯人は、逮捕状なく逮捕できます
。
「現行犯人」とは、「現に罪を行い、または現に行い終わった者」(212条1項)であり、
これに当たらない場合でも「現行犯人」とみなされる場合があります。
それを講学上、「準現行犯人」といい、これを逮捕することを「準現行犯逮捕」といいます。
どのような場合に現行犯人となるのかというと、それが掲げられています。
第212条【現行犯人】
① 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
② 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼(ついこ)されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何(すいか)されて逃走しようとするとき。
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準現行犯逮捕で求められること
準現行犯逮捕も現行犯人とみなして現行犯逮捕と同じように考えていきます
現行犯逮捕でさえ、現認しているのと同様の明白性や接着性を求められます。
現行犯逮捕の適法性
現行犯逮捕(213条)が適法となるためには、「現に罪を行い、または現に行い終わった者」(212条1項)を逮捕する必要がある。
「現に罪を行い、または現に行い終わった者」に当たるかどうかは、以下の3つが必要
・ 犯行と犯人の明白性
⇒ 現認していない場合、原則として、逮捕者が罪を行い終わるのを現認する必要があるが、客観的外部的状況にてらして犯行・犯人が明白であることが必要ならば、現認した場合に準じるということができる。
・ 犯行と逮捕の時間的・場所的接着性
⇒ 犯行と逮捕の間に時間的な隔たりがある場合、時間的に接着した段階で逮捕者が逮捕行為に着手した後、犯人の追跡行為が継続している場合、時間的経過があっても現行犯逮捕をすることができる。
・ 逮捕の必要
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現認していない場合の現行犯逮捕はけっこう厳しめです。
そのため、準現行犯逮捕でも「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき」に当たるかどうかは事実関係が重要になってくるのです
そして、その判断基準を考える上で重要な判例が「内ゲバ事件判例」になります。
内ゲバ事件判例とは?
内ゲバ事件判例(最決平8.1.29)とは、
刑訴法212条2項にいう「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」に当たるか?が問題点となり、
被告人の外見の状態などから当たるとされた事例
一定の時間や場所的離隔も事実としてあったため、どのようなときに当該各号に該当するのかが問われています。
明確なことは言っておらず、事例判断をしているにすぎません。
内ゲバとは?
内ゲバ (うちゲバ)とは、 内部ゲバルト (ないぶゲバルト)の略です。
ゲバルトというのはドイツ語 で「暴力」をあらわします。
同一の陣営や党派などといった組織内部における暴力争い(抗争)のことを指して使われ
とくに日本の場合では、60年代前後で激しかった学生運動や左翼集団の党派闘争を指す場合が多いとされています。
判例のポイント
この判例のポイントは大きく3つあります。
以下の3つがポイントです
1 「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」(212条2項)に当たるとされた。
2 逮捕した被疑者を最寄りの場所に連行した上でその身体又は所持品について行われた捜索及び差押えが「逮捕の現場」(220条1項2号)
3 逮捕した被疑者を最寄りの警察署に連行した上でその装着品及び所持品について行われた差押え手続が刑訴法220条1項2号による差押えとして適法とされた
1「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」に当たるか?
1「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」に当たるか?について
判例では以下のように言って適法としています。
1 いわゆる内ゲバ事件が発生したとの無線情報を受けて逃走犯人を警戒、検索中の警察官らが、犯行終了の約1時間ないし1時間40分後に、犯行場所からいずれも約4キロメートル離れた各地点で、それぞれ被疑者らを発見し、その挙動や着衣の汚れ等を見て職務質問のため停止するよう求めたところ、いずれの被疑者も逃げ出した上、腕に籠手(こて)を装着していたり、顔面に新しい傷跡が認められたなど判示の事実関係の下においては、被疑者らに対して行われた本件各逮捕は、刑訴法212条2項2号ないし4号に当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときにされたものであって、適法である。
※2、3について判例の引用
2、3については、本件とは逸れますが、念のため以下に判例を引用しておきます。
「2 逮捕した被疑者の身体又は所持品の捜索、差押えについては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるなどの事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときは、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上でこれらの処分を実施することも、刑訴法220条1項2号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができる。」
「3 被疑者らを逮捕した後、各逮捕の場所から約500メートルないし3キロメートル離れた警察署に連行した上でその装着品、所持品について行われた本件各差押えは、逮捕の場所が、被疑者の抵抗を抑えて差押えを実施するのに適当でない店舗裏搬入口付近や車両が通る危険性等もある道幅の狭い道路上であり、各逮捕現場付近で差押えを実施しようとすると被疑者らの抵抗による混乱を生ずるおそれがあったなどの事情のため、逮捕の後できる限り速やかに被疑者らを差押えに適する最寄りの場所である右警察署に連行した上で実施されたものであるなど判示の事実関係の下においては、刑訴法220条1項2号による差押えとして適法である」
準現行犯逮捕の評価をする際に用いられる「時間的場所的接着性」は、現行犯逮捕の「犯罪の現行性」という要件の基準ですが、
判例の事実が、このワードに引っ張られすぎて勘違いが多い印象です。
判例の判断とは?
本件は、事例判断です
判例では、どんな事実をどう評価したでしょうか?
まず、このような事実があります。
・x; 犯行終了後1時間経過した頃、傘もささず靴も泥だらけ
・y、z; 1時間40分経過したころ、現場から4キロ地点で着衣を泥で汚れていた
これらは、いずれも「職務質問」をする際の「嫌疑」です。
嫌疑があるから職質をかけます
いずれも職務質問に対して答えず逃げ出していました。
職務質問は「誰何されて」と考えることができるので、ここからが、準現行犯逮捕の「罪を行い終わってから間もない」に直接かかわってくるのでしょう
この後、このような事実を認めました
・xは、300メートル追跡があり、籠手をつけていた
・y、zは、髪がべっとり濡れて、zは、顔面に新しい傷があり血の混じったつばを吐いていた
という事実を認められ逮捕に至りました。
ということなので、1時間とか1時間40分という事実について判例は評価して言っていません。とくべつに意味のある事実でもない。(もはや4キロ離れたという点については全く関係ない)
髪や着衣、靴の状態を見て、時間的に間が無い(だろう)と評価しているのです。
職務質問をするために停止するよう求めたところ、同被告人が逃げ出し
それを約300メートル追跡して追い付き、その際、同被告人が腕に籠手を装着しているのを認めた
などの事情があったため、同被告人を本件犯行の準現行犯人として逮捕したというわけです。
たしかに1時間40分、4kmでも準現行犯逮捕を認めた事例ではあるのですが、この言い方は間違いなくミスリードでしょう。
1時間40分が時間的に接着しているのかわかりませんし、4kmが接着しているのかもわかりません。参考になることもありません
時間とか場所とかを示して類似の事例が試験問題として出題されることもあろうかと思いますが、その際は評価をしなければなりません。
ということで少し注意が必要な判例でした。
お読みいただきありがとうございました。