今回のポイントはこちら。民法総則の意思表示に関する規定です。
・意思無能力の規定が新設された。
・法律行為も内容しだいで公序良俗違反となることを明文化。
・心裡留保は真意でないことが分かればよいと要件を緩めた。
・無効を第三者に対抗することができないことを明文化。
・錯誤の法律効果が「無効」から「取消し」になった。
・「要素」が無くなって、「取引通念に照らし重要なもの」になった。
・「動機の錯誤」が明文化された
・「表意者重過失」、「相手方も重過失」、「共通錯誤」は、錯誤の効力を否定できる。
・錯誤による取消しは、善意・無過失の第三者に対抗できないとした
・第三者詐欺又は強迫は、表意者に有利になった。
・「無効となった行為の原状回復義務」、「取消しの効力が生じない場合」の新設。
・利益を受ける者が不正した場合も条件が成就しなかったものとされる。
・隔地者に対する意思表示の要件が少し広がった。
意思無能力の規定が新設された
意思無能力の規定がなかったため新設しました。
いままでは、判例(大判明38.5.11)にて、意思能力を有しない者がした法律行為は無効となるとしていたので、これを踏まえています。
この意思無能力を理由とする無効は、意思能力を有しない者側からしか主張することができません。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
法律行為も内容しだいで公序良俗違反となることを明文化
通常、お金の貸し借りなど、消費貸借契約ですので、法律行為自体は公序良俗に反しません。
ところが、判例(最判昭47.4.25)によれば、動機が賭博などの場合、無効にしていました。これを踏まえ、解釈上の運用だったところを明確化するために文言を削除しました。
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
新:第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
心裡留保は真意でないことが分かればよいと要件を緩めた
下記に93条の条文を載せてますが、
旧法では、「相手方が、表意者の真意を知り、または知ることができたときは無効」だったところ
新法では、「相手方が、その意思表示が、表意者の真意ではないことを知り、または知ることができたときは無効」としています。
→ 表意者の真意まで知る必要はなく、真意ではないことがわかれば十分!というように要件を緩めました。
無効を第三者に対抗することができないことを明文化
心裡留保の無効は善意の第三者に対抗することができないと新設しました。
→(最判昭44.11.14)の判例によると、
表意者と善意の第三者との関係について、94条2項を類推適用して、第三者を保護していました。結論は維持しており、法律構成を新設してます。
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
新:第93条(心裡留保)
①意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
②前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
錯誤の法律効果が「無効」から「取消し」になった
を踏まえ、無効から取消しになりました。
→ 宅建とか法律関係の試験では、この変化が大きいかもしれません。「表意者のみが主張できる」という判例を踏まえています。
詐欺と比べてみると、詐欺は表意者に直接帰責性はありませんが、取消しです。
錯誤は、表意者に直接帰責性があるにもかかわらず無効ですと、取消しより強力な法律効果を与えることになりますのでこのバランスを考慮しています。
「要素」が無くなり、「取引通念に照らし重要なもの」になった
旧法で、法律行為の要素に錯誤があったときという部分を、錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときに改めました。
法律行為の要素に錯誤があるというためには、
①錯誤がなかったならば意思表示しなかったということ。
②錯誤がなかったら通常は意思表示しなかったといえるくらい重要であること。
この2つが必要でした。
「錯誤」と「意思表示しないだろう」ということとの間に因果関係があることが表意者自身の視点で、錯誤が意思表示を左右するほど重要であることは通常人の客観的な視点です。
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
新:第95条(錯誤)
①意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
1 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
2 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
「動機の錯誤」が明文化された
を踏まえて、動機の錯誤が表示されていれば効力を否定できることを明文化しました。
→ 物件名や商品名の書き間違いのように、現実に表れたものが「表示の錯誤」で、その物件や商品を買う理由にあたる部分が「動機の錯誤」に当たりますが、二つを区別していなかったため明文化しました。
②前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
「表意者重過失」・「相手方も重過失」・「共通錯誤」は、錯誤の効力を否定できる
→ 錯誤の場合、表意者に直接帰責性がありますが、みずから虚偽の外観をつくりだしたような場合ほどは責められることもないので、
第三者には、善意・無過失まで求められます。
③ 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
1 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
2 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
錯誤による取消しは、善意・無過失の第三者に対抗できない
→ 相手方の保護について見直しています。相手方も保護すべき要請に応じてバランスをとっています。
④第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
第三者詐欺又は強迫は、表意者に有利になった。
取引の相手方が、第三者の詐欺や強迫について知ることができたような状況では、保護する必要もありません。
さらに、第三者が出てきた場合、対抗できるのは「善意無過失の第三者」であるため、一層、表意者に有利になりました。
(略)
② 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
③ 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
新:第96条(詐欺又は強迫)
(略)
②相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
③前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
「無効となった行為の原状回復義務」、「取消しの効力が生じない場合」の新設
無効となった行為に基づいて、債務が履行されてしまった場合、原則、原状回復義務を負うという規定を新設しました。
新設:第121条の2(原状回復の義務)
①無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
また、判例(大判大正5.12.28)では、追認は、取消権を有することを知った後にしなければその効力を生じないとされてました。
① 追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。
新:第124条(追認の要件)
① 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
利益を受ける者が不正した場合も条件が成就しなかったものとされる
条件が成就したことにより、利益を受ける側の当事者が、条件を成就するために不正をはたらいた場合、条件が成就しなかったものとみなす、という規定を新設しました。
→ 最判平6.5.31において、事例判断ですが、130条類推により条件成就しなかったものとしていましたのでこれにしたがっています。
(第1項は略)
(第2項は新設)
新:第130条(条件の成就の妨害等)
(略)
②条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
隔地者に対する意思表示の要件が少し広がった
相手方が、意思表示の到達を妨害した時、到達したものとみなすことを新設。さらに、行為能力の喪失から「制限」となり要件を緩和しています。
① 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
(第2項は新設)
② 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。(改正後の③)
第97条(意思表示の効力発生時期等)
(略)
②相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
③意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。