今回は南九州税理士会事件です。
こちらは、よく「目的の範囲内」というお話ででてくると思いますが
じつは「思想・良心の自由」の論点です。
わりと理解できていない人が多いところですので紐解いていきたいと思います
南九州税理士会事件とは?
この判例は、税理士会が政党に対して寄付することは、会員の思想・良心の自由を侵害するか?が論点となり
「税理士会が政治資金の寄付をすることは、
個人的な政治的思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるから、
税理士会の目的の範囲外の行為である」とされました。
そのため、目的の範囲外の行為を強制する特別会費の納入義務を課すことは、政治的思想・信条を強制されない自由を侵害し19条に違反します。
この問題の前提となりますが、「税理士」対「税理士会」です
税理士会は法人であり、法人等の団体の権能の問題があります
そして、税理士会は、会社とは法的性質を異にする法人とされました。
なお、「会社」は、目的の範囲が広範です
会社の目的の範囲内の行為の限界はどこまでかは「八幡製鉄事件」(最大判昭45.6.24)が参考です。
団体の意思決定
団体にも自律が尊重されます。
すなわち、一方の対立利益として、「結社の自由」があるからです。
団体が意思決定をする上で根拠とするのは結社の自由で
団体による寄付を認めようとする際持ち出すことが考えられ、反論として使われることもできるかと思います。
税理士会は団体の意思に基づいて活動し、税理士は会員として税理士会の意思に従い協力する義務を負うのが原則です。
もっとも、税理士会は強制加入団体である一方、税理士はそれぞれ様々な思想を持つ者が存在することは当然に予定されています。
したがって、税理士会の活動及び税理士の協力義務には、限界があることになります。
税理士会の活動として、「目的の範囲内に含まれるかどうか」が、この限界を決めるラインになり得るというわけです。
寄付は税理士会の活動として目的の範囲内か?
では、寄付をすることはどうでしょうか
「政治団体に寄付する」ということは、とても政治的な行為です。
判例もこれを政治資金規正法を引きながら言います。
そのため、寄付は、ひとりひとりが個人の思想に基づいて自主的に決定すべきこととされます。
このように自主的に決定すべきことを多数決原理によって団体の意思として決定し強力を義務づけることはできないから
したがって、税理士会が政治団体に対して寄付をすることは目的の範囲外であるとしました。
たとえ、税理士に対して有利な法令を求めるロビイングでも同じです。
強制加入と寄付の協力義務
会員は強制的に会費を支払っており、支払われた会費から寄付金は拠出されます
税理士会には拠出された会費を税理士会の目的のために使うことができますが
この目的の範囲に含まれる行為の協力を求めても、思想・良心の自由を侵害しません。
そのため、目的の範囲外に当たる場合、違憲となると解することになるのです
判例の「自主的に決定すべきことを多数決原理によって団体の意思として決定し強力を義務づけることはできない」のところで、
国労広島地本事件(最判昭50.11.28)を引用しており、「強制加入であるかどうか」が重要な要素として考えられていることがわかります。
国労広島地本事件では、臨時組合費の納付義務を否定したのですが、
その理由は、労働組合を脱退すると大きな負担があり、組合を脱退する自由が事実上大きな制約を受けているからでした。
射程について
強制加入という点からだと、団体の意思決定に反対する自由が保障されうるようにも思えます。
ただ、政治資金という点、投票の自由という言い回しを使っていて意思は意思でも政治的意思という強い権利だったり、国労広島地本を引用して、強制加入の部分と権利の性質をあわせて強調しているからやっぱり政治資金を寄付しない自由までしか及ばないのかなとも思ったりします。
いずれにしても、あまり明確ではありません。しかし、それは団体が世の中にたくさんあるから、それぞれの団体によって、個別に考えたいからだと思います。
『税理士会が強制加入団体であり、その会員に実質的に脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で特別の考慮が必要である。税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に対して金員を寄付することは、その寄付をするかどうかが選挙における投票の自由と表裏を成すものとして会員各人が市民としての個人的な政治的思想等に基づいて自主的に決定すべき事柄である以上、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、税理士会の目的の範囲外の行為である。』(最判平8・3・19)
ということで、今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。