多数当事者の債権・債務関係ってややこしくてどうも気が進まなかったんですが、向き合わなきゃなーと思ってたしだいです。
ところが、意外と改正でわかりやすくなっててナイスな感じでした。債務関係と債権関係で分けていきます。
第1.「債務者」が多数の場合
定義の改正について
連帯債務 ⇒ 旧法を維持
不可分債務 ⇒ 「目的が性質上不可分なもののみを対象とする」
旧法の定義はというと、
・連帯債務:可分で、法令の規定により、各債務者が全額責任を負う
・不可分債務:当事者の意思により、又は性質上、不可分である
具体的にどういうものが可分・不可分・連帯債務か?
可分の場合、原則として分割されるのですが、そうでないものもあります。ざっと判例をあげておくと
分割債務
・共同相続した金銭債務(最判昭34.6.19)
・共同相続した手形債務(大決昭5.12.4)
不可分債務
・共同相続財産に属する所有権移転登記申請協力義務(最判昭36.12.15)
・共有物を売却したときの引渡債務(大判大12.2.23)
・賃料支払い義務(大判大11.11.24)
連帯債務
・共同不法行為者が負担する損害賠償債務(最判昭57.3.4)
それぞれの規定の内容はどう変わったか?
内容の改正としてポイントは、「一人に対して生じた事由がほかの者に影響するか?」です
まず、連帯債務は、原則、相対的効力で、「一人に生じた事由はほかの連帯債権者に効力が及びません」(441条)
といっても、旧法はややしいことに絶対効力事由が混ざったりしていてこれが混乱のもとでした。このところを整理してくれたのでナイスです。
・連帯債務
⇒ 旧法で、絶対的効力事由だった以下3つが、相対的効力事由となりました。
「履行の請求」(旧434条)
「債務の免除」(旧437条)
「時効の完成」(旧439条)
また、「相殺」は、援用を認めてないが、履行を拒むことができるという消極的な効果となりました。
次に、不可分債務ですが、
「混同」以外は、連帯債務の規律を準用しています(430条)
したがって、まずは、連帯債務を覚えて不可分債務は、混同だけ消滅しない、と考えていけばいいってことですね
新旧変化はこんなかんじです。
(1)履行の請求
新:廃止
(2)相殺
新:援用は認めない。かわりにその負担部分について履行を拒めるとした
(3)債務の免除
新:廃止
(4)時効の完成
新:廃止
第2.「債権者」が多数の場合について
1.定義がどう変わったか?
連帯債権 ⇒ 新設!
不可分債権 ⇒ 「目的が性質上不可分なもののみを対象とする」
以下のように整理されたわけですが
旧法の定義というと?
不可分債権:当事者の意思または性質上可分であるが、当事者意思によって不可分とされたものなど
となっています。連帯債権はいままでもほぼ使われることはなくほぼお目にかかることはないです
具体的にどういうものが可分・不可分・連帯債権か?
こっちも可分であれば原則分割でありますが、ざっと並べてみます。
分割債権
・共同相続財産に属する保険金債権は、分割債権(大判大9.12.22)
・共同相続した不法行為に基づく損害賠償債権(最判昭29.4.8)
・共有物件の賃料債権(最判平17.9.8)
不可分債権
・共同座相続財産に属する家屋の明渡請求権(最判昭42.8.25)
連帯債権
・判例がないが、たとえば、賃貸人と賃借人の、転貸人に対する賃料債権とか。
それぞれの規定の内容はどう変わったか?
債務関係と同じですが、それぞれの内容の改正としては、一人に対して生じた事由がほかの者に影響するか?です
まず、連帯債権は、原則、相対的効力で、「一人に生じた事由はほかの連帯債権者に効力が及びません」
例外として以下4つ
履行請求
弁済(432条)
更改・免除(433条)
相殺(434条)
混同(435条)
これらがあったときは、すべての連帯債権者のために債権は消滅します。
次に、不可分債権は、
更改又は免除(433条)と混同(435条)以外は、連帯債権を準用しています(428条)
改正のまとめを簡単に
・履行の請求
旧法では、ほかの連帯債務者にも効力が及ぶ。(消滅時効が停止したり履行遅滞に陥るなど
⇒ 新法では、ほかの連帯債務者に効力が及ばなくなった
・更改
⇒ 変化なし
(ほかの連帯債務者に効力が及ぶとされるがそのまま変わらず)
・相殺(1項、2項)
ほかの連帯債務者に効力が及ぶ。
(自身の負担部分と関係なく、債務自体がすべて消滅する)
⇒ 変化なし
また、ほかの連帯債務者の債権で、相殺を援用できた
⇒ これができなくなった代わりに、相殺されるまで債務の履行を拒むことができる
・免除
ほかの連帯債務者にも効力が及ぶ。
(全額ではなく免除された債務の額が消滅して、自身の負担部分の割合も債務が減る)
⇒ ほかの連帯債務者に効力が及ばない
・混同
⇒ 変化なし
(正確には、混同があると、その連帯債務者は弁済したものとみなされ、求償権を得るので、ほかの連帯債務者からすれば実質、支払いを逃れるわけではない)
・時効の完成
ほかの連帯債務者にも効力が及ぶ。
(全額ではなく時効完成で消滅した債務の額だけ消滅して、自身の負担部分の割合の分、債務が減少する)
⇒ ほかの連帯債務者に効力が及ばない
更改と混同以外は相対的効力と覚えておけばだいたい大丈夫ですね