今回は、債権者代位権の変化を判例とともに分かりやすく整理してみました。
1.要件を明確化した
① 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。
ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
② 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。
ただし、保存行為は、この限りでない。
(第3項は新設)
① 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利を行使することができる。
ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
② 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。
ただし、保存行為は、この限りでない。
③ 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
ざっとポイントをまとめると、
・「自己の債権を保全する」という目的を、より強調するため文言に追加された
・「差押禁止債権」が文言に追加され、代位行使できないこと等が明確化された
・債権の期限が到来しない間も民事保全制度を利用できるようになっていたことから、「裁判上の代位は不要となり廃止」された
2.債権者代位権の行使方法について追加された条文
債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。
→ 判例(最判昭44.6.24)に従い、代位行使できる範囲を自己の債権の額の限度として明確化
債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。
この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する
→ 判例(大判昭10.3.12)に従い、金銭・動産の引渡しを債務者ではなく、「直接自分に引渡すよう請求できる」ことを明文化
債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。
→ 債権者代位権の相手方についても追加されました。判例(大判昭11.3.23)に従い、相手方は、債務者に対して主張できる抗弁をもって債権者に対抗できます。
3.債務者の権限について追加された
債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。
この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。
→ (大判昭14.5.16)では、
「債権者が代位行使に着手してしまうと、債務者は止められなかった」のですが、結局、債権者は財産保全ができれば良いわけです。
債務者が処分することを妨げてしまうのは過剰な財産権侵害と考えられ新設されています。
4.債務者への訴訟告知を義務付けることを新設
債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない
債権者代位訴訟を提起した場合、判決の効力は債務者にも及ぶのですが、債務者は訴えがあることを知らないこともあり、手続き保障が十分ではなかったのです。
そこで、債務者に対して「訴訟告知」という裁判を知らせる手続きをすることを債権者に義務付けています。
5.債権者代位権の転用について新設
登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。
この場合においては、前3条の規定を準用する。
債権者代位権というのは、本来、債権者が無一文になってしまう債務者の財産を守るための制度です。
不動産登記を保全するために債権者代位権を行使することは「債権者代位権の転用」と言い、(講学上)区別されていました。
改正でも、一般の債権者代位権と区別して条文として規定されたわけですが、ほかにも、判例では、一般の債権者代位権と区別してこのような転用を認めています。
債務者の無資力にかかわらず権利行使する場合を転用としていますので、無資力は要件となりません。
参照判例としての転用事例
□移転登記請求権
□不法占有者への明渡請求権
□共同相続人が買主に代位する特殊な例
□妨害排除請求権
以上です。