共謀、そして共謀の射程について
判例と学説が混在していたり某予備校の解説が間違っていたり
あまり整理されていない印象でしたので
わかりやすく解説してみようかと思います
※一文が長くなりますのでスマートフォンの方は横画面にしていただいた方が読みやすいかと思います。
共謀の射程とは?
「共謀の射程」とは、「共同正犯において、共謀に基づいて結果が発生したと評価できる関係のこと」を言います。
共謀した内容が素直に実行されていればいいのですが、そうではなく
実行者が暴走したり、計画を変更したり、共謀内容と異なる行為をしたとき、
それでもなお共謀した内容が実行行為に及んでいると言えるのか
という問題意識の論点となります。
そして、「共謀」とは、正確な定義はされていませんが、
犯罪を共同で遂行しようという意思を合致させる謀議又はその結果成立した合意をいいます。
なお、共同正犯の成立要件については、いくつかの整理があるところです
1.共謀 共謀に基づく実行行為
2.共謀 重大な寄与 共謀に基づく実行行為
3.共謀 正犯性 共謀に基づく実行行為
4.共同実行の意思 共同実行の事実
共謀共同正犯と共同正犯のちがいは、実行行為がない者について本当に正犯として犯意があるのかというケースの場合にあらわれてきます。
「共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならない」
共謀と意思の連絡とのちがい
両者の違いとしては、意思連絡より、共謀の方が強く、「各自の犯意を実行に移す意思」までをも求められる点にあるといえます
これは、共同正犯は、実行行為をする一方、共謀共同正犯では実行行為をしないからです。
実行行為をする以上は、その者が自己の犯意を実行に移す意思は読み取れるでしょう。(実際に実行しちゃっているから。当たり前と言えば当たりまえ)
これに対して、共謀共同正犯は、実行行為を行わない者も共同正犯となる場合をいいます。
すなわち、実行行為を行わない以上、他の事実から「犯意を実行に移す意思があるかどうか」を読み取っていかなくてはならないのです。
求められる正犯意思
このような理由から、「ただ犯罪の計画をたてる」というところに参加しただけでは片手落ちとなるのです。
たしかに、共謀というと、我々としては日常用語的に、犯罪の計画をたてるという感じがします
しかし、刑法ではもう少し強い意思が要求されることになり
これが「正犯意思」と講学上呼ばれるものです。
これは要件としてたてなくてもよい(そういう整理もある)のですが、事実認定はしなくてはなりません。
※もし、要件としてたてる場合、「正犯意思」、「共謀」の順となるので注意です。
たてない場合は、さきほどの判例のように「共謀」のなかに読み込んでいきます。
共謀共同正犯がなぜ論点となるのか?
「共同正犯」には、共同実行が必要であるため、実行行為を行っていない場合、共同正犯にはならず、教唆犯(狭義の共同正犯)にとどまることになります。
(正犯、正犯性、正犯意思という概念を持ち出すとき、共同正犯と教唆犯・従犯は明確に分けることになる
「共犯」ということばは共同正犯の省略のような印象がある言葉だと思うので、狭義の共犯とは言わず、教唆犯・従犯のほうがわかりやすいような…)
しかし、実際には、教唆犯ではなく、「共同正犯」を成立させたいというケースがあります。
それが、黒幕とか組織の上下関係など
その場合、共同実行がなくても「共同正犯」となった場合、「共謀共同正犯」と呼びます
「共謀共同正犯」の成立は、判例(大判昭和11.5.28)で認めているため、あてはめれば十分だろうと思います
その際は、
・ 暗黙の了解をしている場合は果たして「謀議」と呼ぶことができるのか?
などといった事実の評価は分かれうるでしょう。
それから、現場では意外なことが起こったりします。
電車で行くと言ったのに
電車に乗り遅れて、当初の予定と違い、急遽タクシーを捕まえるようなものです
共謀した内容と違う犯罪を実行行為者が行ってしまうなどといった暴走をすることがあるのでしょう。
こうした場合、変わらず共謀者も狭義の共同正犯となって同じ罪責を負うのでしょうか?
これが「共謀の射程」と言われる論点です。
当初の予定と行為の因果性
共謀の射程とは、
「共同正犯において、共謀に基づいて結果が発生したと評価できる関係のこと」でした。
共謀の射程が及ぶということは、共同正犯が、自らが直接生じさせていない結果についても刑事責任を負う
ということですが、これが認められる理由は、共謀によって互いの犯意を強化し、実行分担者の行為に心理的な因果性を及ぼしているからであると説明されています。
逆に言えば、なんらかの共謀を遂げた場合であっても、
実行分担者が共謀内容とは無関係に独自の意思決定によって結果を発生させたと評価される場合
共謀の射程が及ばず、共謀のみに関与した者は共同正犯としての罪責を負わないことになるのです。
ただ、実際には、犯行計画が現場の状況などで変更されることは十分あり得ます
そのため、事前の共謀内容と異なった犯行が行われたとしてもそれが共謀から生じうる事態であればなお共謀の射程は及ぶことになります。
例えば
(最判平6.12.6)では、
と判断しています。
意思がどの行為まで及ぶのかは合理的に解釈することになるのです。
ということで、今回は以上になります。お読みいただきありがとうございました。