自招侵害・自招危難の処理手順とは?わかりやすく判例解説

自招防衛の難しさは、正当防衛のどの要件についての論点が決まっていないことにあります。

事案によって検討すべき要件がちがってきます。そのため、どこで検討するのかが変わるということです。

予備校でもほとんど取り上げられることがなく判例だけ引っ張ってきて演習で重要問題として挙げているのが現状です。

結果として、このあたりの理解がなかなかできていないことが非常に多いです。

そういうわけで、今回は自招侵害(自招危難)について考えてみたいとおもいます。

自招侵害・自招危難とは?

「自招侵害・自招危難の論点」とは、急迫不正の侵害を自ら招いた者が、侵害に対して防衛行為を行った場合、正当防衛が成立し、違法性阻却されるかという問題です。

正当防衛が成立するかという問題のため、わけがわからなくなってしまうので

自招侵害が成立するときは正当防衛が成立しない、自招侵害が成立しないときは正当防衛が成立するという対概念であることを整理しておく必要があります。

自招防衛という言い方もしますが、正当防衛と対立するので混乱をさけるため、自招侵害ということにします。

自招侵害・自招危難の要件とは?

自招侵害の難しさは、正当防衛のどの要件についての論点が決まっていないことにあります。

自招侵害が急迫性の要件の問題であるというのは半分合っていて半分ちがいます

相当性の論点であるというのも半分合っていて半分ちがいます。

どの要件の問題にもなり得るしどちらの要件で検討したとしても違うことがあるということ

つまり、事案によって検討すべき要件、試験的には書く場所ですが、これがちがいますので、どこで検討するかが変わるということです。

体系を重視する刑法ではあってはならないのですが、どこか一つの要件に整理することができません。

そのため学説上一致しませんし錯綜してしまうのです

予備校でもほとんど取り上げられることがなく判例だけ引っ張ってきて演習で重要問題として挙げているのが現状です。

そして、覚えさせるというにとどまります。そのためほとんどの受験者が自招侵害の論点を見落とし、あるいはスルーして、薄いは論述しかできていません

これは体系化できない以上しかたのないことであり、深入りせずに何もかんがえず覚えるというのが最短かつ合理的なやり方だからです

採点実感でも自招防衛について抜け落ちている、あるいは検討が不十分という指摘をしています。

しかし、ほとんどの刑法テキストでも浅い内容しかありません。たいして言及されていないのです

採点実感としては言及せざるを得ないもののできないこともわかっているためここで合否が左右するほどの影響はたぶんないです。メイン論点になっているのも見かけませんしたぶん出ません。

しかし、自招侵害がどういう論点なのかはわかっていた方がいいでしょう。

あくまで考え方としては、正当防衛の各要件からは外れた個別論点としてとらえる必要があります。

現状では、緊急避難のようなひとつの独立した自招侵害という体系が正当防衛の成立に対抗する理屈としてあると考える方がすっきりします。

自招侵害・自招危難の判例とは?

自招侵害は、端的には自招侵害成立なら犯罪成立、正当防衛なら犯罪不成立(違法性阻却)です。

自招侵害は、正当防衛を否定する理屈である点を抑えておきます。

言葉に惑わされないよう立場を確認することが重要です。

有名な判例は、平成20年決定があります。もっとも、事例判断のため一般化はできません。

しかし、重要な判断をしているため分析していきます。

判例いわく、自招侵害に基づく防衛行為は、「先行行為に触発された直後に近接した場所で一連一体の事態といえる場合の攻撃」としています。

『相手方の攻撃に対して被告人が反撃行為を行った場合であっても、相手方の攻撃が、被告人が相手方に対して先に加えた暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができるときには、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるものでない事実関係の下においては、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況にあるとはいえず、正当防衛は成立しない。』
最決平20・5・20刑集62・6・1786

攻撃についての評価として、先に加えられた攻撃に触発され、その直後に近接した場所での一連一体の事態といてる場合には先に加えられた攻撃は自ら不正な行為をして招いた侵害結果であるとしています。

すなわち、先行行為に触発された直後に近接した場所で一連一体の事態といえる場合、「自招侵害」が成立するというのです。

自招侵害を素直に読めば、自ら侵害を招くことなので、自招侵害が成立するといえます。

自招侵害を正当防衛を否定することまで意味するものと考えれば、後につづく、暴行の程度を大きく超えるものでないことが必要となってきます。

ここで「相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるものでない事実関係の下においては」といっているのがこの判例のポイントです。

自招侵害と相当性の要件

自招侵害が成立する場合、ただちに正当防衛が否定されるという単純な話ではありません。

自招侵害が成立した上で、相当性も求められるのです。

ここがポイントというか、言い方が難しいですが、自招侵害が成立して、攻撃の程度が相手より大きく超えるものでないときは正当防衛は成立しません。

検討するポイントとしては、自ら招いた行為について「急迫不正の侵害といえるか」という部分と、反撃行為について「やむを得ずにおこなったといえるか」についてがあることになりそうです。

素材が少ないのでとりあえず現状では、この2点をそれぞれの正当防衛の要件で検討すれば今の体系で書きやすいです。そして、「何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況にあるか」を評価していくと良いかと思います。

自招侵害が成立する上で相当性も求めらて正当防衛を否定できないと考えるのか、そもそも自招侵害といえるような場面で相当性もあってはじめて自招侵害として成立するのかその定義はまだはっきりしていないからです。

なお、防衛の意思については「侵害を避けようとする単純な心理状態」でよいと考えられているので問題にはしません。

この辺は、ことばの問題でもありますが、自招侵害という論点がよくないかもしれないです

自招侵害の成立とさらに相当性があって正当防衛を否定していきます。

自招侵害といえる場面でも、攻撃の程度が大きく超えてしまっては過剰防衛となり得るので、正当防衛が成立してしまう(正当防衛を否定できない。)ということです。

これを正当防衛の相当性の要件としてとらえるのか、自招侵害の成立の要件としてとらえるのかは謎ですが、残された課題になろうかと思います。

小さいことですが、このことばの問題のせいで混乱している現状があるので整理してほしいところです。

ということで、今回は以上になります。お読みいただきありがとうございました。