債権総論と言われる分野の一部についてまとめていきます。債権の目的と債務不履行です。
今回のポイントは
1.善管注意義務の内容は取引通念で決まることを明文化
2.選択債権特定の要件が限定された
3.原始的履行不能の場合の規定が新設された
4.債権者の受領遅滞の効果を新設した
5.履行不能でなくても帰責事由がなければ損害賠償責任を負わない
6.填補賠償の規定が新設された
7.賠償の範囲である特別の事情は「予見すべきであったとき」責任を負う
8.損害賠償額の予定を削除
■ 債権の目的
1.善管注意義務の内容は取引通念で決まることを明文化
400条の善管注意義務の内容・程度は、取引におけるさまざまな事情できまります。そのことをあきらかにするため文言を追加しています。
400条(文言追加)
契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる。
2.選択債権特定の要件が限定された
旧法では、選択債権の目的である数個の給付の中に不能の者がある場合には、原則として残存する給付が当然に債権の目的となるとされていました。
しかし、不能のものを選択した方が有利な事もありこれを認めても特別に負担が重くなるわけでもないため一定の歯止めをかけて、「当事者の過失がなく、給付が不能になった場合」の取扱いが変わりました。
新設
数個の給付の中に不能のものがある場合、選択権者の過失による時に限り、債権の目的となる。
■ 債務不履行
3.原始的履行不能の場合の規定が新設された
大判大正2年5月12日によると、
債務の履行が物理的に不可能な場合のみならず、取引通念において履行が期待できないような場合にまで拡げて考えています。これを新設しました。
新設
債務の履行が不能であるときは、履行請求できない
さらに(最判昭25.10.26)によると、
傍論ではありますが、「原始的不能の場合、債務不履行に基づく損害賠償請求ができない」という判断を示しており以下を新設
新設
契約成立時に債務の履行が不能であったことは、損害賠償することを妨げない(損賠請求できる)
4.債権者の受領遅滞の効果を新設した
受領遅滞の場合の以下の効果を明文化しています。
◆ 特定物の引渡しについて、受領遅滞の後は、自己の財産と同一の注意義務で足りる。
◆ 増加した費用は、受け取るべき債権者の負担となる
◆ 受領遅滞の後、いずれの過失でもなく履行不能となってしまった場合、「債権者の帰責事由」となる。
債権者に帰責事由がない場合にも以下の効果が発生するかは、一応解釈なのですが、判例(最判昭40.12.3)によれば発生する立場と考えられます。 なお、受領遅滞に基づく解除は認められていません。
5.履行不能でなくても帰責事由がなければ損害賠償責任を負わない
旧法では、履行不能以外の債務不履行について、規定が無かったのですが、
(最判昭61.1.23)でも同様に、
「履行不能にかかわらず、債務者に帰責事由がない場合は、損害賠償を負わない」
としていたため規定を新設です。
この場合、債権者が、「帰責事由がないですよ」と立証する必要があります。
また、帰責性の有無についてどう判断するか?についても、取引通念にしたがって諸事情を考慮すべきなのでそのことを追加してます。
それから、
「債務の履行に代わる損害賠償請求ができる」
ことを新設してます。
旧:第415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
新:第415条
①債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
6.填補賠償の規定が新設された
填補賠償というのは、債務が履行不能となったとき、その債務に代わる損害賠償のこと。
履行遅滞の場合、本来の契約がまだ維持されているため原則として填補賠償できません。(541条の催告をしておけばできます)
最判昭30.4.19では、家屋賃借人の妻の失火により家屋が焼失し賃借人の家屋返還債務が履行不能となった事例で
「解除の意思表示をすることなく填補賠償できる」とされました 。
大判大4.6.12では、特定の山林の3分の1を譲渡すべき債務が遅延した場合に債権者が解除をせずにただちに填補賠償を請求した事例で
「物の引渡し債務の履行が遅滞した場合には債権者は解除して初めて填補賠償できる」としました。
(▼2項に追加されました)
②前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
1 債務の履行が不能であるとき。
2 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
3 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
7.賠償の範囲である特別の事情は「予見すべきであったとき」責任を負う
特別事情ですが、当事者が「予見するべきだった」といえる事情を含めるように明確化しています。
たとえば、転売です
不動産販売で仕入れの時に、すでに違約金をつけて転売契約を結んでいるような場合
転売契約の違約金についても賠償に含まれるとすると、予測できない事情となるのでさすがに妥当ではないです。
ところがこれを「予見していた」という主観的な基準で考えると、契約時に告げることで賠償範囲に含めることができてしまいます。
そこで、これを「予見すべきであった」という客観的に評価できる事情に限定していくことになります。
8.損害賠償額の予定を削除
損害賠償額を予定していた場合、裁判所は増減できないことになっていました。
ところが、裁判実務では公序良俗違反で増減判断をしていました。
そのため、実務に合わせ、削除されました。
こんなところです