【2020民法改正】時効の条文新旧の変化とは?【対照表まとめ】

条文の変化が多く分かりにくいと思うのですが、適宜条文参照してみてください。

新法における完成猶予事由、更新事由を条文ごとにまとめています。

といっても、改正内容については、若干、対象となる完成猶予事由を拡大したりしてますが、ほぼ同じであまり変わりません。

改正のポイントは、分かりやすく文言を変えて、条文を整理したことなのです。

こちらは、新旧の変化をまとめた図です

改正のポイント

・消滅時効の援用権者を正当な利益を有する者とした。

・時効中断を「完成猶予」と「更新」に分けた。

・中断事由であった仮差押え及び仮処分は完成猶予の効果のみになった。

・中断事由とされていなかった財産開示手続きが完成猶予または更新事由となった。

・当事者の協議を行う合意書面によって完成が猶予される規定が新設された。

・天災による時効完成猶予の期間を2週間から3ヶ月となった。

・権利行使できることを知った時から5年という債権の消滅時効を追加。

・短期消滅時効と商事消滅時効が廃止された。

・生命身体侵害の損害賠償債権は債務不履行構成なら権利行使できる時から20年に伸長。

1.消滅時効の援用権者を正当な利益を有する者になった

当事者に含まれるのがだれか?について、判例を踏まえて明文化されました。

物上保証人(最判昭43.9.26)

第三取得者(最判昭48.12.14)が明確になりました。

消滅時効の援用ができない人をおぼえておけばいいでしょう。

消滅時効の援用ができない者

・後順位抵当権者

・債務をみずから承認した債務者

旧:第145条

時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

新:第145条

消滅時効の当事者には、「保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者」を含む。

時効中断を「完成猶予」と「更新」に分けた

旧法において、「中断する」となってますが、「催告」は「完成猶予」するものですし、「承認」は、時効をゼロから新たに進行させる「更新」です。

文言と法律効果の理解が困難なものとなっていました。

「時効の完成が猶予されるもの」と、「新たにゼロから時効を数える更新」の二つの効果があるのに、「中断」とひとくくりに言っていました。

「時効停止」についても時効完成猶予であるところを停止といっていました。

などなど

とにかくわかりにくかったところ、「完成猶予事由」と「更新事由」という2つの概念で再構成し、条文を整理しています。

以下、条文ごとに確認していきます。

(どうしても簡単なことばにできなかったところもあります。)

時効の停止は、完成猶予に含まれました。

新法147条に関しては、

「以下の各事由が終了するまで、時効の完成が猶予される」ということを覚えておけば十分かなと思います。

・ 裁判上の請求

・ 支払督促

・ 和解又は調停

・ 破産、再生、更生手続の参加

新旧の条文の変化について対応させてみます。

旧法では、散らばって定められていたのが、新法では少しまとめられています。

旧:第147条(時効の中断事由)

時効は、次に掲げる事由によって中断する。

1.請求
2.差押え、仮差押え又は仮処分
3.承認

[改正後の第147条、第148条に対応]

旧:第149条(裁判上の請求)

裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。

[改正後の第147条第1項第1号に対応]

旧:第150条(支払督促)

支払督促は、債権者が期間内に仮執行宣言の申立てをせず効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。

[改正後の第147条第1項第2号に対応]

旧:第151条(和解及び調停の申立て)

和解又は調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、1箇月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。

[改正後の第147条第1項第3号に対応]

旧:第152条(破産手続参加等)

破産などは、債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力を生じない。

[改正後の第147条第1項第4号に対応]

旧:第157条(中断後の時効の進行)

① 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。

② 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。

[改正後の第147条第2項、第148条第2項、第152条第1項に対応]

新:第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

①次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了するまでの間は、時効は、完成しない。
(確定判決等によって終了した時から6箇月を経過するまで)

1.裁判上の請求
2.支払督促
3.和解、調停
4.破産など

②確定判決などによって権利が確定したときは、それぞれの事由が終了した時から新たに時効が進行する

中断事由とされていなかった財産開示手続きが完成猶予または更新事由となった。

「財産開示手続き」や「差押えをともなわない強制執行」も時効完成が猶予されることになりました。

旧:第154条(差押え、仮差押え及び仮処分)

差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により取り消されたとき又は法律に従わず取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。

[改正後の第148条、第149条に対応]

新:第148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

①次に掲げる事由が終了するまでの間は、時効は、完成しない。

(申立ての取下げ又は法律に従わず取消しされた場合、6箇月を経過するまで)

1.強制執行
2.担保権の実行
3.競売
4.財産開示手続

②それぞれに掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

ただし、申立ての取下げ又は法律に従わず取消しされた場合は、この限りでない

中断事由であった仮差押え及び仮処分は、完成猶予の効果のみになった。

仮差押え・仮処分は、6ヶ月の完成猶予です。

更新の効果はなくなりました。

旧:第154条(差押え、仮差押え及び仮処分)

差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。

[改正後の第148条、第149条に対応]

新:第149条(仮差押え等による時効の完成猶予)

次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

1.仮差押え
2.仮処分

催告のみで時効完成の猶予となった

催告だけでは足りなくて、さらに裁判上の手続きが必要でしたが、新たに催告のみで効果を発揮するようになりました。

旧:第153条(催告)

催告は、6箇月以内に、以下のどれかをしなければ時効の中断の効力を生じない。

・裁判上の請求
・支払督促の申立て
・和解の申立て
・調停の申立て
・破産手続参加
・再生手続参加
・更生手続参加
・差押え、仮差押え又は仮処分

[改正後の第150条に対応]

新:第150条(催告による時効の完成猶予)

①催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

②催告によって時効の完成が猶予されている間に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力は生じない。

当事者で協議を行う合意書面によって完成が猶予される規定が新設された

これまでは、時効の完成を防ぐためだけに、訴訟提起や調停の申立てをしなければならなかったことから新設されました。

メールなどで協議する意思が表れていれば大丈夫です。

新設:第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)

①権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。

1.その合意があった時から1年を経過した時
2.その合意において当事者が1年未満で定めた協議を行う期間を経過した時
3.相手方に対して協議の続行を拒絶する通知が書面でされたときから6箇月を経過した時

②前項により時効完成が猶予されている間に再度合意した場合、時効の完成猶予の効力を有する。

ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。

③催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第1項の合意は、時効の完成猶予の効力を有しない。

同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。

天災による時効完成猶予の期間を2週間から3ヶ月となった

旧:第161条(天災等による時効の停止)

時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

新:第161条(天災等による時効の完成猶予)

時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変が消滅した時から3箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない

債権者が、権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき時効消滅することを新設

旧:第166条(消滅時効の進行等)

① 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。

(第2項は新設)

新:第166条(債権等の消滅時効)

①次に掲げる場合には、債権は、時効によって消滅する。

1.債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2.権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

②債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

生命・身体の侵害の損害賠償債権を債務不履行に基づく損害賠償請求権で構成する場合、時効期間は20年

旧:第167条(債権等の消滅時効)

① 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
② 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。

[改正後の第166条第1項・第2項に対応]

新:第167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効について、「20年間」とする。

短期消滅時効の廃止・商事消滅時効が廃止された

第170条から第174条までは削除されました。

これらは、実際には実益に乏しいということが理由のようです。

・ 短期消滅時効の廃止

・ 商事消滅時効の廃止

判断が困難といわれていたり、法定利率が見直され必要なくなったことも影響しています。

たとえば、

「動産損料」にあたるのは、貸寝具や衣装であって建設重機はあたらない(最判昭46.11.19)

銀行商人では5年であるところが、「信金」は商人ではないので10年

など、判断が困難でした。

というわけで、長くなりましたが以上です。

これでも省いているのですが、やはりちょっと条文が多くて大変です。

しかし、はじめに申し上げましたが内容はそれほど変わっていません。

ポイントだけ掴んでおけばよろしいかと思います。

というわけで、お読みいただきありがとうございました。