【民法改正】 賃貸借は何がどう変わったか?

今回は、賃貸借についての改正点です。
とてもボリュームが多いですが、不動産実務では賃貸借が関わらないことはあり得ませんので、どのような立場であってもチェックしておく必要があります。

1.賃貸借の合意内容

旧法では明確ではなかったですが、「賃借物を返すことを約する」ことが合意内容であることを明確化しました。

旧:第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

新:第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

2.賃貸借の存続期間

普通借の存続期間の上限を50年に伸長しました。

旧:賃貸借の存続期間は、20年を超えられない

新:賃貸借の存続期間は、50年を超えられない

土地を借りる際、住む場合やテナント募集するように、建物を建てるならば借地借家法が適用されるので関係ありません。

一方、ゴルフ場経営とか太陽光パネル設置などでは、存続期間を20年以上としたいニーズがありましたが、再契約をしなければならなかったので、このようなニーズに対応することになります。

※「50年」という数字は「永小作権」の存続期間を意識して合わせてます。

3.修繕

◆ 賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になった場合、賃貸人は修繕義務を負わないとしました。

旧:賃貸人は、必要な修繕をする義務を負う。

新:賃貸人は、必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人責任で修繕が必要になった場合は修繕の義務を負わない。

◆ 賃借人が修繕できる場合について新設しました。賃貸人に対して、必要費を償還請求することができます。

新設:賃貸人が必要な修繕をしないとき、急迫の事情があるとき、賃借人は修繕できる

4.賃料の減額

◆ 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合、当然に減額されることになりました。

旧:賃料の減額を請求することができる。

新:当然に減額される

旧法では、請求しなければならなかったところです。

5.解除

◆ 賃借人の責任があっても解除できることになりました。

賃借物の一部滅失によって使用収益できなくなり、契約の目的を果たせないときには、賃借人に過失があっても解除できます。

旧:賃借人の過失によって一部滅失の場合、契約目的が果たせなくても解除ができない

新:賃借人の過失によって一部滅失の場合、契約目的が果たせないときには解除できる

◆全部使用できなくなった場合、終了します。

新設:賃借物の全部が滅失した場合、賃貸借は終了する

最判昭32.12.3)を踏まえて明文化です。

6.転貸借

◆ 転借人の債務の範囲

転借人は、「賃貸人に直接履行義務を負う」とされていました。

しかし、解釈としては、もちろん転貸借についての債務を履行するものであり、「原賃貸借契約における賃借人の債務の範囲に限られる」とされていました。

新設:転借人は、原賃貸借における賃借人の債務の限度において賃貸人に直接義務を負う

◆ 合意解除と転借人

最判昭62.3.24)により、

転貸された場合、賃借人(転借人の貸主)に債務不履行がなければ、原賃貸借を合意により解除しても転借人に対抗することができません。

(不当に追い出すことができてしまいますので)

新設:賃借人が債務不履行でその解除による場合は対抗できる

7.原状回復義務・収去義務

◆ 原状回復義務の内容を定めました。裁判実務を踏まえて、明文化しています。

新設:賃貸借が終了したときは、賃借物を受け取った後に生じた損傷について、原状回復義務を負うが、通常の使用収益によって生じた賃借物の損耗や賃借物の経年変化については原状回復義務を負わない

この意味は、
「賃借物を受け取ったあとに生じた損傷は、賃借人が原状回復義務を負う経年劣化は原状回復義務を負わない賃借人の責任ではない場合は、原状回復義務を負わない」です。

◆ 賃借物に附属させた物についても収去義務を負うことを新設

使用貸借の規定を準用するかたちで明文化しました。

新設:賃借物に附属させた物についても収去義務を負う

8.敷金

◆ 敷金の定義を定めました

最判昭48.2.2)を踏まえ、敷金の定義を明確化

新設:いかなる名目を問わず、賃料や賃貸借によって生じる債務を担保する目的で借主が交付する金銭

これは、保証金、権利金と呼んでいても敷金の適用を受けることを意味します。

また、敷金の賃料への充当については(大判昭5.3.10)によると、借主からは指定できません。

新設:賃借人は敷金を賃料の弁済にあてることを請求できない

9.賃貸人たる地位の移転

◆ 登記をした不動産賃貸借は、不動産について物権を取得した物その他の第三者に対抗できます。

旧:不動産賃貸借の登記をしたときは、その後物権を取得した者に対しても効力を生じる

新:不動産賃貸借の登記をしたときは、物権を取得した者その他の第三者にも対抗できる

(最判昭28.12.18)によると、

「物権」ではなく賃借権のような「債権」をもつ第三者についても「対抗できる」としていたのでこれに合わせて明確化しています。

◆ 対抗要件を備えた譲渡では当然に移転します

新設:対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転する

→ もっとも、合意により移転しないとすることは認められます。貸す場合というのは、宅建も必要ないです。大家さんは誰でもなれるんですよ。

◆ 対抗要件を備えた譲渡では譲渡人と譲受人の合意

新設:対抗要件を備えていない賃貸不動産が譲渡された場合、譲渡人と譲受人との合意により賃借人の承諾を要しないで賃貸人たる地位を移転できる。

最判昭46.4.23)によると、

「対抗要件を備えていない場合、賃貸人たる地位については、譲渡人と譲受人が合意していれば賃借人(入居者)の承諾なく移転できる」
としていましたので明文化です。

ようは対抗要件がなければ、譲受人と譲渡人の合意が必要で、対抗要件があれば、この合意も不要となります。

◆ 費用償還債務・敷金返還債務

最判昭44.7.17)によると、

「賃貸人たる地位が移転した場合、費用償還債務や敷金返還債務について譲受人に承継される」としており、新設です。

新設:敷金返還債務について譲受人に承継される

敷金は超ややこしいところでして、実は業者側も20年、30年のベテランでさえ間違えます。

とりあえず、敷金といえば返還するものと考えておいてください。(返還しないものを償却金といいますが、敷金に包括してたりします。都内の場合たいてい敷金としておきつつ0.5ヶ月償却と小さく書いてあるので半分持ってかれます…。)

譲り渡しちゃってるので、こちらに敷金の(費用償還も)返還を求めるとなると回収が困難になります。

物件を購入した場合、そのままくっついて買主が引き継ぐことになります。

ちょっとボリューム多いですので、この辺で…