今回は、三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)についてです。
一文が長くなるため、スマートフォンの方は横画面の方が読みやすいかもしれません。
三菱樹脂事件の事案とは?
これは、内定をもらっていたのに、採用試験の面接で学生運動をしていたことがわかり、履歴書の記載と異なるという理由で採用拒否を受けてしまったというものです。
入社試験の際、政治的思想を申告させることが19条の「思想・良心の自由」を侵害するようにみえます
原告の主張も、優越した地位にある者が思想信条を侵害してはならないことを理由とします
思想の制約があるのか?
たしかに、企業と求職者では力の関係は歴然としています。
思想ひとつで採用が決まるという利害関係です。
しかし、申告しないこともできますし、雇用契約は会社の自由なわけです
この点の対立が問題になるのですが、
そもそも、強い影響力のある企業は、「国家」ではありません。
そこに「強制力」はないからです。
ただし、普段生きていればわかりますが、その「実質的な強制力」はおおいにあるでしょう
これを同一視できるのかどうか?ここがポイントとなるのです
私人間に憲法の適用があるか?
憲法の基本的人権の保障についての規定を直接適用・類推適用はできないとしています。
理由としては、支配力の態様、程度、規模はさまざまで国家による場合と同視すればいいかわからないからです
「どのような場合に国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるばかりでなく、権力の法的独占という裏付けを欠く社会的事実としての優劣関係にすぎない」
このような直接適用・類推適用を否定する理由から、「間接適用」を導いています。
間接適用とはどういうことか
まず、立法措置によるべきであるということ、そして、私人が影響力の強さを背景に不当なことをしているのであれば、それは不法行為であったり、公序良俗に反することになります。
そのため、私的自治のもとで解決が可能ですのでそちらを目指すべきであるというのです
ということで、結論のむすびが違憲になるという表現ではたして正しいのかは疑問なのですが、
民事上の要件を検討する際、事実認定・評価の中で、憲法がでてきて価値判断に影響を与えるということになるのです。
実際、判例も、契約締結の自由という契約行為から認定しています。
企業に雇用の自由が認められるか?
間接適用説の立場をとり、
社会的に許容できる限度を超える人権侵害の場合、民法の一般条項の諸規定を運用することができるとしました。
本件では、企業の雇用の自由に基づき、特定の思想信条を有する者の雇入れを拒むことは、当然違法となるものではない。
社会的に許容できる限度を超えないとしました。
労働者の採否決定の際に、思想信条を調査するため、申告を求めることも社会的に許容できる限度を超えるものではなく違法ではないとしました。
ということで、今回は以上になります。
お読みいただきありがとうございました。