「錯誤」は改正でどう変わったか?について迫ります
1.要素の錯誤が無くなった
新:錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき
→ 法律行為の「要素に錯誤がある」というためには、
・錯誤がなかったならば意思表示しなかったということ
・錯誤がなかったら通常は意思表示しなかったといえるくらい客観的に重要といえること
この2つが必要でした。
「錯誤」と「意思表示しないだろう」ということとの間に因果関係があることが、表意者自身の視点で、錯誤が意思表示を左右するほど重要であることは通常人の視点です
2.動機の錯誤が明文化
最判昭29.11.26を踏まえて、動機の錯誤が表示されていれば効力を否定できることを明文化しました。
物件名や商品名の書き間違いのように、現実に表れたものが「表示の錯誤」で、
その物件や商品を買う理由にあたる部分が「動機の錯誤」に当たりますが、二つを区別していなかったため明文化しました。
3.無効から「取消し」へ
を踏まえ、無効から「取消し」になりました。
法律関係の試験では、この変化が大きいかもしれません。
表意者のみが主張できるという判例を踏まえています。
結論がたいして変わらないので同じだろと思うかもしれませんが、法律家としてはけっこう大事な変化かと思われます。
なぜなら、詐欺と比べてみると、詐欺は表意者に直接帰責性はありませんが、取消しです、
錯誤は、表意者に直接帰責性があるにもかかわらず無効ですので、取消しより強力な法律効果を与えることになります。このバランスを考慮して見直されているからです。
4.共通錯誤も取消せる
→ 相手方の保護についてみなおしています。相手方の保護すべき要請に応じてバランスをとっています。
5.第三者には無過失が必要
→ 錯誤の場合、表意者に直接帰責性がありますので、第三者は保護すべき要請はあります。
といっても、みずから虚偽の外観をつくりだしたような場合ほどは責められることもないので、第三者には、善意無過失まで求めてバランスをとっています。
新旧対照表
条文は大きく変わりましたので、以下に対照表を置きます。
旧(錯誤)第95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
新(錯誤)第95条
①意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
② 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
③ 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
④第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。