今回は、サラリーマン税金訴訟についてです。
こちらの判例は、所得税法が、給与所得者であるサラリーマンにとってきわめて不利な制度であると主張したものです。
自営業者とか他の所得者に比べて不利で法の下の平等に反するものであり課税処分の取消を求めたという事例です。
よく似た名前がついているものとして、「総評サラリーマン税金訴訟」があります。
サラリーマン税金訴訟の事案とは
サラリーマン税金訴訟の事案とは、所得税法が、給与所得者であるサラリーマンにとってきわめて不利な制度であるという点から
自営業者に比べて平等に反するかということが争われた事案です。
この言わんとすることは、
自営業者はチョロまかすことができるのに、サラリーマンはきっちり税金を回収されるのはズルいんだ!というのが本音です。
本件で原告が主張したのは以下の点です。
・必要経費の実学控除が認められていない。
・補足率が高く、両者には格差がある
・租税優遇措置がサラリーマンにない
自営業では、自分たちで売上の中から経費を引いていきますのでさじ加減が比較的可能です。経費で落とすというものですがとにかく税金を減らすことができます。
一方、サラリーマンは事業者として人事部総務部経理部あたりがキッチリ仕事をして確実に天引きしていきますね。
実態はこんな感じですがこれを社会保障の制度からみていくとさまざまな違いがあるようです。
サラリーマン税金訴訟の判例
サラリーマン税金訴訟の判例では規範としては、
租税法によって生じる所得性質の違いを理由とする取扱いの区別は、立法目的が正当で、かつ区別の態様が目的との関連で著しく不合理であることが明らかである場合に限り、違憲である。
というように判断しました。
サラリーマン税金訴訟判例のポイント
サラリーマン税金訴訟判例のポイントとしては下記の点です。
・租税制度は憲法上の要請である
・立法府の政策的な判断に委ねられる
・立法府が裁量権を逸脱濫用した場合、違憲となる
三権分立の政治体制のため司法の判断は立法と権衡しますので、立法府に裁量があり、裁量権を逸脱濫用したいる場合に違憲とするという論理展開をおこないます。
背景には憲法で重要な価値観である平等への疑義があるため、若干緩めの判断をしようとする姿勢がうかがえます。
納税の義務(30条)を定め、税を課し又は変更する場合法律の定めが必要になる(84条)とされる。
課税要件や賦課徴収の手続きについて憲法で定めておらず法律に委ねられている。
租税は所得再分配・資源適正配分・景気調整といった機能があり総合的な政策判断、専門技術的判断が必要となる。
そのため、立法府の判断に委ねられその裁量的な判断を尊重せざるを得ない。
そこで、租税法によって生じる所得性質の違いを理由とする取扱いの区別は、立法目的が正当で、かつ区別の態様が目的との関連で著しく不合理であることが明らかである場合に限り、違憲となる。』
さて、このような法制度の適否について主張されると、国家財政や経済事情、国民所得や国民生活の実態といったことについて正確な資料も必要になってくるので、裁判所では判断ができません。
そのため、国家権力の裁量権逸脱を判断することしかできないとなります。
サラリーマン税金訴訟における必要経費の実額控除について
サラリーマンは使用者から受ける給付の額はあらかじめ一定額に確定していますし、費用(施設、備品)のたぐいは使用者が負担していることがほとんどです。
サラリーマンが支出する費用は、それぞれ金銭の性格や主観的事情を反映するため、支出形態や金額も異なります。
その結果として、収入金額との関連性が間接的であり、かつ不明確なものでもある考えられるのです。
たしかにそうだなと思いましたが、これは端的にいえばサラリーマンは仕事をする上であまり必要な費用がかからないということを言っています。
また、数が膨大であるから各自の申告による個別的な認定は、技術的な困難があり税務執行の混乱を生じる可能性があります。
そして、各自の主観的事情やその証明によって租税負担の不公平が生じることになるので、このような弊害を防止するため制度目的は正当といえるとしています。
結局のところ、税制度が合理性を有するかどうかは、給与所得控除の額が、給与所得に係る必要経費の額と比較して相当性を有するかという点となります。
サラリーマン税金訴訟における補足率についての主張
サラリーマン税金訴訟における補足率についての主張があります。
補足率というのはどれだけきっちり正確に税金を取られるかということです。
サラリーマンでは毎月の天引き、年末調整によりほぼ確実に税金を徴収されますし、タクシー利用や飲食店での経費利用が認められるのは難しいですが、自営業だと確定申告などいわば自己申告であり、何が経費で何がプライベートなのか曖昧でもなんとかなったりします。
こうした事業所得者の捕捉率が、給与所得者の捕捉率を下回っていて不平等であるという点が主張され争点となっています
両者について、差異があり、ともすれば不平等になりかねない部分は認められます。
ただ、確かにそうかもしれませんが、そのような不均衡の問題は、原則として税務行政の適正な執行により是正されるべきものであるとしています。
そのため、捕捉率の較差が正義衡平の観念に反するほど著しくかつ長年にわたり恒常的に存在し租税法自体に原因があるというような場合に限って違憲となることがあるのだとしています。
あくまでも政策として解消されるべきで司法の判断するところではないというようなところです。
これが容易く認められれば大量の訴訟案件や税務処理の問題が現実的に発生しそうなので訴訟にはなじまないかもしれません。
ということで今回は以上になります。お読みいただきありがとうございました。