今回は「建築請負工事における所有権移転の時期」という論点です。
建物は、ほかの物と違って、何もないところから少しずつできあがって完成する特徴があります。
そのため、施主はどのタイミングで所有権を取得するのかが問題になります。
これはとくに材料費の負担が請負人負担であったり、建てている途中で何らかの問題が起こった時に問題となる場面です。
・ 注文者がいつ所有権を取得するのか?
・ 建築請負契約の担保責任は認められるのか?
といった論点が考えられます。
日用品で、不良品があったから取り替えてくれ、とか、返金してくれ、とかそういったレベルではなく、大きな買い物になるので、大きな論点になってきます。
請負人帰属説か注文者帰属説か?
状況によっては大きく4つの場面を考えなければなりません。
完成した建物の所有権はいつ移転するか?
完成していない段階ではいつ所有権移転を認めることができるか?
完成していない段階で工事が中断した場合、所有権の帰属をどう考えるか?
完成していない段階でさらに下請け人がいる場合はどうなるか?
今回は主に完成した建物の所有権はいつ移転するのかという点について検討します。
建物建築請負における所有権移転を考える上で前提になることとは
はじめに、新築建物の所有権の帰属について、前提の確認です。
■ 前提として、建物は敷地と別個独立のものとして所有権の客体となる
■ 取引当事者の合理的意思に沿うべく、所有権の帰属について、合意に基づく特約などがあればそれにしたがう
■ 合意がない場合にはじめて注文者説か請負人説かが問題となる
試験などでも以上のような、基本的な事項から確認していくことが重要です。
判例は請負人説
合意が無い場合、判例は、原則として「請負人説」を採用していると評価されてます。
(大判大5.12.13)
・注文者が材料の多くを供給していれば、注文者の所有と認める。
(大判昭7.5.9)
完成した建物の所有権はいつ移転するか?
なぜ、請負人の所有を考慮するのか?というと、それは「請負報酬の担保のため」です。
請負人からしたら完成建物それじたいは必要ないです。
ところが、対価の支払いをさせるために所有権を主張します。
その場合、所有権は請負人にあると言えるのか?が問題意識ですが、これには2つの考え方があります。
請負人帰属説
1つは、請負人帰属説です。
請負人帰属説は、請負人が最初から所有して、引渡してはじめて注文者に所有権が移転するというものです。
原則として、材料の所有権が積み上げられて、完成した建物となるため材料の全部、主要な部分を提供したものに所有権が帰属します。
例外として、注文者が代金支払いをしていた場合は、注文者に帰属します。
※なお、こちらの立場でも、特約において、注文者の所有を合意すれば優先されると考えられています。
(大判大正5.12.13,大判昭和18.7.20)
また、材料基準説などともいわれ、材料を提供したものが所有権を取得すると説明されたりします。
しかし、注文者が材料を提供した場合、注文者帰属説に吸収されますので無視していいです。
請負人帰属説の根拠
請負人帰属説はわりと素直な考え方なので、材料の所有権を建物所有権の根拠にしています。
基本的には、請負人が材料を提供して工事して完成させます。
そのため、請負人が所有権を取得して、引渡し時に注文者に移転するものと考えます。
材料を所有していたのが請負人ですので、材料の積み重ねである建物も請負人の所有として考えで
材料である動産一つ一つに所有権を観念していく自然な考え方だと思います。
これを「物権の法理」とか呼んだりしますが、正確な定義のある用語じゃないので気にしなくていいです。
もう一つの根拠として、判例(最判昭40.5.25,最判昭46.3.5)では、「報酬請求権の確保」を挙げています。
請負の担保責任について、637条1項が「目的物を引渡したときから一年と定めていること」(改正あり)をはじめ、他の条文から引渡しによって報酬請求権が発生し、それまでの危険を負担していることなどを理由にしているのです。
注文者帰属説
もう一つは、注文者帰属説です。
これは、注文者が最初から所有し続けると考えるもので、材料の提供者がだれであっても注文者が取得し、物権変動はないとするものです。
当然ですが、こちらの場合、特約に言及することはありません。
注文者が取得する特約は不要ですし、最終的に注文者が取得したいので、請負人に所有させるのは意味がわからないことになります。
注文者帰属説の根拠
注文者が支払いをしていた場合、注文者に帰属するという理屈の根拠は
支払いについては所有権のある方が支払うというのが自然な感覚かとは思いますが、一応、こまかく検討する必要があります。
まず、材料提供の実質です。
注文者が材料の費用を負担している事実から、注文者が材料の提供者と評価することで、注文者所有を認めます
そのため、「支払われた代金が材料の全部または主要部分の費用に相当するか」
という具体的な金額によって判断します。安ければ所有を否定することもできそうです。
次に、黙示の合意です。
代金全額支払いの場合、
請負は、仕事の結果に報酬を支払うので、代金全額が支払われれば、注文者が所有権を取得するのが当事者の合理的な意思解釈であると、考えます。
代金全額の支払いを黙示の合意と推認していくのです。
このような意思を基礎として、代金全額が支払われたかどうかをみます。
代金の大半を支払った場合、
注文者としては建物取得のために契約をしているところ、
請負人としては報酬が確保されれば、建物を保持する利益は特にないので
注文者に取得させても通常問題ないので注文者に所有権が移転してよさそうです。
このような当事者の意思を基礎と考えて、こちらも代金支払いを黙示の合意として推認していきます。
違うのは、金額です。
いくらくらい支払ってあれば良いかは、請負人が報酬確保について懸念することがないか?を基準とします。
したがって、注意すべきこととしては、「報酬請求権を担保する必要性」です。
引渡し前の段階で、いくらか代金を支払っている場合は、
材料の対価の負担に着目し、請負人が材料費を回収できる程度の報酬を得たかが判断基準なろうかと思います。
(もし、注文者が飛んだとしても十分な金額か?とか何割くらい支払いがあれば懸念がないと評価できるかといいた認定の問題です。)
実務的には…
まあ、実際には、とにかく注文者(不動産会社)が搾取します。(基本的には請負人帰属説と考えられます。)
発注者は一番えらいです。まだ完成していない内にリスクを負うことはまずありません。
実際には、建物ができあがるまで請負人所有としておきつつ材料、見積もりにも口出ししますし、工事中でも水面下で販売します。(違法ですのであくまでも契約とは言いません…)
その上で、完成までに生じる一切の危険負担は請負人負担です。
「まだ引渡し受けてないだろ」と平気でいいます。
たとえば、材料の鉄鋼など資材が高騰したり、人手不足(オリンピックとか震災の復旧とか)で人件費が値上がりすることがありますが、まず交渉には応じません。当たり前のように値上がりした分は請負人に負担させます。
過酷な世界です…