【表見代理】民法109条・110条重畳適用とは?【わかりやすく判例解説】

今回は、民法109条と110条の重畳適用ができるのか?という判例の解説です。

※スマートフォンの方は横画面にしていただくと読みやすいかもしれません。

「重畳適用」とは、ふたつの条文を組み合わせて初めて法律効果を主張できることをいいます。

この事例は、「代理権授与表示の範囲を超えた代理行為がなされたとき、表見代理が成立するか」という問題でした。

表見代理については以下

表見代理とは?要件や無権代理との違いを解説

の記事をご参照ください。

表見代理の重畳適用の事例とは?

事例を確認すると、契約がふたつあります。

表見代理が問題となったのはふたつめの契約です。

先行していた契約が原因で表見代理が成立するのではと疑われることになりました。

・売主Yは、先行する売買契約によって山林を売却した

・買受人Aの代理人Bは、Yから必要な書類をすべて受け取っていた

・Aの代理人Bは、買い受けた山林について、Yの代理人と名乗って、X1X2との交換契約を締結した

❶先行する売買契約

本人A(買主)
本人Aの代理人B
相手方Y(売主)

❷後行の交換契約

Aの代理人Bが、Yを装った

そのYの無権代理として行動したBと交換契約を締結した相手方X1.X2(実際には代理人Cがいるが省略)

Yは、x1.x2から、表見代理の成立を主張された

判例の問題の所在とは?

本件の問題の所在とは、「代理権授与表示の範囲を超えた代理行為がなされているが、表見代理が成立するか」という点です。

これには次の二つの疑問が隠れています。

・代理権授与表示の範囲を超えているが、代理権授与表示があったといえるか?

・代理権授与表示の範囲を超えているが、基本代理権とすることができるか?

2つの論点が重なっていて、それぞれをクリアするために重畳適用のような考え方を認めたという事例です。

つまり、結論からいうと、109条と110条の重畳適用を明言して認めてはいません。

ところが、結論としては、重畳適用を認めた場合と同じになるという判断です。

代理権授与表示をしたと言えるか?

表見代理の成立するためには、代理権が必要です。

代理権があったというためには、代理権を授与したことが必要です。

109条では、「本人」Yによって、Xに対して、授与表示がなされることを定めています。

ところが、Bは、無権代理として行動した者が相手方に提示しています。

これが、代理権授与表示をしたことになるのかが問題意識となるのです。

第一審、第二審では、無権代理として行動したBは「特定他人」ではなく、第三者であるから、109は適用されないとしました。

これに対して、判例ではひっくり返しました。(破棄)

判例のポイントとは?

ポイントとして、Yに取引に必要な書類を渡していたことです。

Yは、先行する取引で登記等を任せる委任状をBを介してAに交付していました。

それが、A、Bいずれにしても委ねる意思と評価されたのです。

本件では、AもBも、Yの信頼を受けた「特定の他人」と言えるとしました。

判例いわく

『Bは、Yから各書類を直接交付され、Aは、Bからその書類の交付を受けることが予定されていた。

そうすると、いずれもYから信頼を受けた特定他人である。

かかる書類を相手方に示して代理人として交換契約を締結した場合、Yは、代理権授与表示をしたということができる』

ということで、代理権を与えたことを表示したものといえると判断したわけです。

109、110の重畳適用はできるか?

代理権を授与表示の行為があったといえるとは言うものの、まだ不十分で要件を満たしているとは言えません。

代理権授与表示があったとすることを前提に交換契約がなされていますが、代理権は、山林の売買契約であるため、「交換契約の代理権授与表示」とはいえません。

そして、YからBに対して、代理権がない以上、110条の基本代理権となり得るものがないのです。

そこで、代理権授与表示によって示された代理権の内容を基本代理権と同視して、これを基礎として110条を重畳的に適用できるか?

と構成して考えることになります。(※112条、110条の重畳適用についてはすでにS.19.12.22)

売買契約についての代理権を基本代理権として、交換契約の代理権授与表示をしたため、表見代理が成立するのではないか、ということです

いわく、

『交換契約につき代理権があると信じ、そのように信じる正当な理由があるならば、109条・110条によって表現代理が成立し、本人は責任を負うべきである。』

判例では、法律構成までは明言していません。

しかし、「重畳適用するのと同じ結論を導いている」という点については認めています。

※なお、重畳適用は本来、109条で表現代理が成立し、これを基本代理権として110条を適用することになります。そのため、重畳適用ではないのです(0.9+0.9=2になり得ない)本件ではいずれも直接適用はできないケースなのでうやむやにしつつ、結論ありきで認めたのだと思われます。

学説もうやむやになっていますが、判例は重畳適用と明言してもいないし、類推しているのかもはっきりいってないので、その辺は注意です。

というわけで、今回は以上です。

お読みいただきありがとうございました。