民法の虚偽表示94条2項「類推適用」とは?【判例解説】

今回の事例は、典型的な94条2項類推適用です。

94条2項類推適用について判断を示した判例(最判昭45.9.22)についても触れていきます

類推適用というものが突然でてきて、混乱してしまいますが、とくに民法ではもっとも重要なはたらきのひとつです。

使いこなせるようになるには時間がかかるかもしれませんが

なんとなくでも概要が掴めればと思います。

類推適用とは?

「類推」とは、言葉の本来の意味に当たらないケースにも条文を適用させるための解釈方法です。

類推適用は、権利が発生する事実があるけれども、すべての要件を満たさないという場合にも、条文を適用させ効果を発生しようとするのです。

そんなこと許されるのかと思うかもしれませんが

「条文が予定している状況」と本質的に同一のケースであると考えられるのであれば、みとめられます。

一定の価値判断をはたらかせることになります

そのため、その条文が、どのような根拠から法律効果を発生しているのかを明らかにする必要があります。

逆に言えば、似ているところがあるというだけでは認めることができません。

刑法との違い

法学部で刑法を学んでいる人は、刑法で類推解釈してはならないということを聞いたことがあるかもしれません。

刑法で法律効果が発生するのは国家行為です。

国家が権力を発動する場合を定めているため、恣意的な行使を防ぎ、国民の自由が奪われたり萎縮効果を防ぐために類推適用は禁止されています。

罪刑法定主義、明確性の原則とよばれるものです。

民法は、国家ではなく私たち私人どうしの権利行使について定めています。

平等なプレイヤーの利害関係を調整することが目的なので、同じような生活関係は同じように判断すべきであり

類推適用が認められているのです。

民法94条類推適用のケースとは?

94条には、

「通じてした虚偽の意思表示」(1項)として、無効であるという主張

「善意の第三者」(2項)として、無効を対抗できず、有効であるという主張

という関係があります。

94条2項の法律要件は以下です。

・ 通謀によって虚偽の外観があること

・ 本人の帰責性があること

まずは、「虚偽表示」がなくては話になりません。

「無効」という法律効果を発生させるためには、虚偽であることを要し、「虚偽の外観があるという事実」が94条2項を類推解釈する大前提というわけです。

類推の基礎とは?

それでは、類推することができる場面はどういうときでしょうか。

いくら基準がないとはいえ、ある程度の約束ごとはありそうです。

94条2項の「虚偽表示」の規定は、「虚偽の外観」が、「通謀」という「原因」によってつくられた場面に限定されています。

そうすると、通謀が無くても、通謀したときと同じように評価できるならば、結果は同じなのでは?

ということが言えそうです。

ここで、「虚偽の外観」がつくられた「原因」が「通謀」ではなくても、広く捉えてしまおうという価値判断がはたらきます。

虚偽の外観ができあがっているといっても、

・ 本人になりすまして契約した

・ 印鑑を盗んで契約した

・ うまいこと騙して、詐欺的に契約した

など、どのようなプロセスを経たのか、その経緯はさまざまです。

しかし、「虚偽の表示・外観」は必要となります。

この必要な条件が「類推の基礎」というものになってきます。

したがって、虚偽の外観があることを「類推の基礎がある」と言ったりします。

※契約当事者が話し合うなどの「通謀」がある場面を規定したものが94条2項です。

そのため、虚偽表示は通謀することによりあらわれます

通謀が無い場合は、そもそも要件を満たさないのですが、現実問題、そのまま野放しにしていいのか?という意識があります。

それで、「無効」の法律効果を認める方向に持っていきたいので、「類推」という解釈技術を発動させることになります。

94条2項の原則を書け、と法学部の教授が熱くなるのもこのような流れがあるからです。

類推適用と直接適用とは?

通謀がないにもかかわらず、虚偽の外観ができている場合でも、虚偽の外観を知りながら何もしなかったのならば94条を使って妥当な結論を導きたいです。

これを直接適用と分けて、類推適用といいます。

明文がないのに、条文を適用することを広く「準用」といい(多くは準用条文があり)ますが

さらに、条文の要件を満たさないけど、条文の趣旨が及ぶときには類推適用といいます。

94条において鍵となるのは「虚偽の外観」です。

最判昭45.9.22の判例とは?

この判例では、

虚偽の外観である不実の登記があることを認識していれば、通謀していなくても94条2項を類推適用する

ということを判示しました。

事案としては、以下のようになります。

■ 事案

・当事者は、男女の関係にあった二人

・女が、男の実印を勝手に使って、男が所有する家を自分の登記とします。

・男は、この不実の登記を知りましたが、登記を戻すのに登記費用がかかるので、そのままにしていました。

(時は経ち、、なんと二人は結婚して、さらに離婚します。笑)

・女は、訴訟を起こすのですが、訴訟費用がかかるので、女は、自分の名義になっているこの家を売りとばしましたとさ。

はちゃめちゃですがこんなかんじです。男が、この家の買い手に対して、登記の抹消を求めたことから裁判となります。

真実の所有者(男)と第三者(買い主)という裁判です。

最判昭45.9.22のポイントとは?

重要なポイントとは、

「登記費用の捻出が困難なため、登記名義の変更を行わなかった」

ということです。

結論から言うと、「不実の登記がされた家を取り戻すことができなかった」のです。

判例いわく

「不実の登記があることを知りながら、黙示に承認していたときは、94条2項を類推適用する。

したがって、原所有者の男は、売り飛ばした後の善意の第三者に対抗することができない。」

※事案は善意の第三者の主張を認めるかたちのため2項類推適用すると言っています

今回の虚偽の登記ですが、男には登記を移す気はありませんでした。

女が勝手に登記を移しています。

すなわち、この男女は、あくまでも通謀していません

二人で打ち合わせて登記を移しているというわけではないのです。

ところが、その後、男性は知っていながら、登記をそのままにしていました

理由はどうあれ、これが容認している態度であると判断されているのです。

登記に虚偽の外観が作り上げられていて、これを修正するにも女のせいで余計な登記費用がかかります。

たしかに、これを無視したい気持ちはよくわかりますが、そのままにしておくと、「黙示の承認」とみなされるということです。

男は、自分の登記ではないことをわかっていながら、何もしていなかったため、所有権を対抗できなかったのです。

※また、第三者である、買い手は、男女の事情について「善意」でした。

本来、男が所有する家ですが、登記が女名義になっているので、ここに「虚偽の外観」があります。

買い手は善意の第三者で、男は「不実の登記を承認していた」とされ、対抗要件の結果です。

契約関係にあるものが当事者、そうでないものは第三者です。二重譲渡の場合、契約はふたつあるので、おたがいが第三者となります。

94条2項類推適用のまとめ

94条2項の類推適用について順にまとめてみます。

※前提として、「通じてした虚偽の意思表示」(1項)による無効の主張

「善意の第三者」(2項)として、無効を対抗できず有効である主張という関係がありえる

94条2項が適用するには「通謀」が必要

94条2項では通謀が必要です。通謀とは、「相手方と通じてした」でお互いの了解が必要です。

この要件を満たさないということは「適用」になりません。

※「財産隠し」とかで登記を形式的に移すことがあるんですが、ようは、2人で話し合い、2人の合意がなければいけないということです。

94条2項を類推適用するには「虚偽の外観」が必要

94条2項類推のためには「虚偽の外観」が必要です。

通謀が無くても、「虚偽の外観」がある場合、類推適用して無効を主張することができます。

この場合、虚偽の外観があることを類推の基礎があるといいます。

「通謀が無いため、94条2項を直接適用できないが、虚偽の外観があるため類推の基礎がある」というように指摘する必要があります。

判例の事案は94条2項類推適用を認めた

94条2項の「類推適用を認める」ということは、「第三者に対抗することができない」という結果になります。

これは、「取引契約を認める」という意味で、第三者を保護する結果になります。

この価値判断はわかれます。

「通謀がないため適用できない」、残念ながら、もう取り返せません、だと男がかわいそうです。家を持ってても登記なんてあんまり意識しません

一方、すみませんなかったことに…となると、不動産が流通しなくなり日本経済は本当に終わります。

現実的な視点からすれば、重要なことは、「実際の登記がどうなっているか?」です

登記が変化した経緯(事案でいう男女のやりとり)は、はっきり言って知ったこっちゃないことです

登記が変わっているのに、放置しているということは、合意までしてないかもしれませんが似たようなものだろというわけです。

いっぽう、真の所有者からすると何も了承なんてしてないよ、登記なんて知らないし買ったの自分だろという感じでしょう。

放置してたから合意だと思われる?は?勝手に売っといてなんでこっちがわざわざ手続きしなきゃいけなんだと。

通謀があった時のみに限定してしまうと今回のような細かい事情のときに解決できないため、事情を踏まえて現実の紛争処理をしていきます。

必ずしも通謀に限らず取引の安全が確保されるように、原則を修正する形で類推適用をしていきます

第三者の取引保護はどこまで認めるべきか?

続いては第三者の保護についてです

虚偽の外観がつくられた経緯によって、第三者の買い手の取引保護をどこまで認めることができるでしょうか。

外観が作られた事情は、事案でいう男性側(本人)の事情です。

「本人」に「帰責性」があるか?という論点となってきます

ポイントはこちら

はたして男性が意図していたような虚偽の外観がつくられているのか?

本件のように、虚偽の外観がつくられていることを知っていながら放置していたような場合、

放置していたことに責任があるものとして黙示の承認があるとみなされます

では、次の場合はどうでしょうか?

最判平18.2.23の事例とは?

この判例では、

不動産取引に重要な書類の一切を渡してしまっていた場合、虚偽の外観を知りながら放置したのと同じくらいの責任が本人にある

と判示しています。

最判平18.2.23を簡単に確認します。

ポイントだけで良いのですが、さきほどの最判昭45.9.22では、黙示の承認とされていたところがすこし違うのでその点を抑えてください。

※前述の判例の男性の立場を「本人」、女性の立場を「相手方」、買主の立場を「第三者」とイメージして考えてみてください

最判平18.2.23の事案

本人は自分の不動産を賃貸するよう相手方に依頼しました。

相手方には不動産取引に必要な書類や実印をすべて渡し、相手方に任せきりにしていました。

第三者と賃貸ではなく売買契約を締結してしまいました。

これを知って、登記の抹消を請求します。

登記の手続きやら役所の手続きはとても面倒であまりよくわからないし、書類も煩わしい。

そこで、登記済証や印鑑登録証明書など不動産取引に重要な書類の一切を渡してしまっていた場合

本来、勝手に取引されないように自分できちんと管理するものですので、本人に責任があると言えそうです。

判例いわく

「虚偽の外観を知りながら放置したのと同じくらいの責任が本人にある」

といいます。

これは、虚偽の外観作出自体には関与していませんし、その事実も知らなかったのです。

そして、相手方の裏切り行為の側面も強いです。

それでも、類推適用を認め、第三者に対抗することができません。

そのかわり、第三者には善意のみならず無過失も要求して、保護される第三者の範囲を絞ります。

「94条2項、110条の類推適用により、善意無過失の第三者に所有権を対抗することができない」

これは、善意であれば十分だった第三者に「無過失」も要求すべきであるということです。

そのため、94条2項を引っ張ってくるだけでは足りないので、無過失の要件のために表見代理の規定である110条も引っ張ってきて類推適用するのです。

この事例は、もともと相手方が代理人でした。ただ、一度自分に登記を移し、第三者に売却するときには、売主となっているため、表見代理の規定は直接適用できないので、こちらも類推です

※また、代理に関する事実が全くないような場合、類推の基礎がないので、「法意に照らし」というような表現をすることがあります。(最判昭43.10.17)

最後に

不動産取引は高額な取引ですから不自然な点がないか、第三者にはこの売買契約が本当に有効なものであるのかをチェックする必要があるといえます。

そこで、第三者がとくにチェックしていないと、確認を怠った過失となるのです。

類推適用というのは、法律構成というもので、実務家にとっても研究者にとっても最も重要です。

というわけで、今回は以上です。お読みいただきありがとうございました。