債権者代位権と詐害行為取消権の違いとは?わかりやすく解説

今回は、債権者代位権と詐害行為取消権の違いと共通点についてです。

両者とも似ている権利で、よくごっちゃになって混乱するところです。

しかし、両者がどういう権利で何ができる権利なのかを抑えていけばその輪郭がスッキリするはずです。

債権者代位権と詐害行為取消権の違いとは?

債権者代位権と詐害行為取消権は、他人の権利に干渉できる権利という点で同じ性質の権利です。

このふたつはいずれも、「責任財産の保全を目的とする」などと言われます。

・使用する場面設定のちがい

債権者代位権は、「債務者が行使しない」権利を行使することで、

詐害行為取消権は、「債務者が行使した権利」を取消してしまうというものです。

場面設定として、「債務者の動きがまったく反対になる」ことが大きな特徴になります。

ただ、本質としては「債権を回収するための2つの手段」という理解をしておけばいいと思います。

(実際には強制執行をかけるのでその前段階の準備で実体法として規定されている手段)

債権者代位権は、債務者が動かない場合にこちらが動きますので、責任財産の保全としては消極的です。もっとも、財産自体は債務者が持っているため、直接自己に引渡を請求できる点で積極的です。

一方、詐害行為取消権は、債務者が動いた場合に動きますので、責任財産の保全としては積極的なものとなります。

・方法としての違い

債権者代位権は、権利をお金にかえました。詐害行為取消権は、モノや権利を取り戻します。

こうしたところから財産保全の「方法」が異なると言えます。

・履行期の到来

債権者代位権は、権利行使するために、「被保全債権の履行期」が到来している必要があります。債務者への権利が確定しているからこそ、債務者の権利を行使できます。

しかし、詐害行為取消権では、履行期が到来している必要はありません。

履行期まで待たなければならないとすると、待っている間に転々と移転されてしまいます。

そうすると、いざ取り消そうとなったとき間に何人もの利害関係者が生まれ巻き込んでしまいます。そもそも追跡が不可能になることもあり得ます。

・転用

債権者代位権では認められているのに対して、

詐害行為取消権では、「転用」が認められていません。

代位権は行使するだけで権利関係の変動はなくいつ履行されるかだけだからです。

しかし、取消しはいわば適法に移転した権利関係を勝手に変動させてしまうからです。

じつは、債権者代位権の転用が一大論点です。(目的は、責任財産保全でないので、正確には、債権者代位権ではないですが)

債権を金銭にかえる特徴がありましたが、「転用」のケースでは、金銭はわすれましょう。

この場合は、「債務者の権利を行使することができる」という点がポイントです。

これは被代位権利が、金銭債権にかぎらないということで、そのため、無資力要件も必要なくなります。

そうすると、さきほどの登記手続き請求も「転用」のケースになります。実際には金銭債権を保全するため不動産という資産を保全するため微妙ですが。

転用のケースの例

・ 登記請求権
・ (債権譲渡の通知)
・ 妨害排除請求権
・ 移転登記請求権

債務者の持っている登記請求権を代位行使するために、債務者の無資力要件が不要であることを明らかにしました。(大判明43.7.6)

妨害排除請求(大判昭4.12.16)

建物の借主が債権者として、不法占有者に対して、債務者となり得る貸主の土地の妨害排除請求権を代位行使しました。この場合の被保全債権は、「土地を使用収益させる権利」という構成です。

移転登記請求権(最判昭50.3.6)

おまけ

さきほどちらっと記載したのですが、被保全債権が金銭なので、転用ではないのでは?というところが論点だったりします。

転用でないとすると、無資力要件が必要になってしまいます。

買主としては、取引相手が共同相続人となったので、共同相続人全員が登記に協力してくれなければ、代金を支払う必要がないです

この場合、買主は、同時履行の抗弁権に基づく拒絶をしています。

そうすると、移転登記したい相続人は、買主の同時履行の抗弁権を失わせる目的があります。そして、買主の移転登記したくない相続人に対する移転登記請求権を行使すれば、登記が買主に移転するので、買主は同時履行の抗弁権を失い、代金支払わなければならなくなります。

なので、これを利用して、移転登記したい相続人は、買主の同時履行の抗弁権を失わせるために、買主の移転登記請求権を代位行使するので、金銭債権が被保全債権ではありますが、目的が、責任財産保全ではないので、転用の類型となり、無資力要件は不要になります。

・権利行使の方法

債権者代位権は、裁判上若しくは裁判外で行使することができます。(423条1項2項)

これに対して、詐害行為取消権は、裁判上でしか請求できません(424条1項本文)。

そのため、詐害行為取消権は抗弁(訴えられた際、その裁判で請求として反論すること)ができません。

そのかわり、「反訴」(別途、訴えて裁判を起こすこと。)として行使することとなります。

債権者代位権と詐害行為取消権の共通点

両者とも、債権の持つ効力として、履行確保(強制執行)のための異なる二つの手段であり、制度趣旨はおおむね共通しています。

では、具体的な部分ではどのような共通点があるのかというと、無資力要件が求められることや直接自己への請求ができることがあります。

無資力要件

債権者代位権では、自己の財産を保全するためということが要件となります。債務者がやってくれないと他に手段がないというようなお手上げ状態です。

詐害行為取消権では、債権者を害する結果をもたらすことが要件となります。

繰り返しになってしまいますが、「債権者を害することとなる」というのが、財産を手放して支払うモノがないと言ってしまう状態のことです。

直接自己への請求

たとえば、財産隠しで、売買や贈与などで登記だけ別の者に移したりすることがあり、この場合の行為を取消します。

もっとも、法律行為を行ってしまえば権利は移転し、直接法律関係にない者に移った財産をいわば勝手に取消してしまうため、事情を知らない者などにはとてつもなく大きな不利益となります。

そうした背景もあり、過度な干渉にならないよう取消すところまでにとどめており、判例(大判大10.6.18・最判昭39.1.23)では、金銭・動産の場合にのみ直接自己に請求できるとしています。

残されていた課題

両者が責任財産の保全のための異なる制度であることされてはいるものの、重要な課題もありました。

判例では、債権者代位権の行使によって、受け取った金銭の返還請求権と自己の債務者に対する債権(被担保債権)の相殺を認めています。

相殺というのは、自己の債務が消滅させる行為ですので、ひとつの担保的機能があります。

債権者代位権の行使によって、債務を消滅させる代わりに債権を充足しているため、すべて自己完結しています。

詐害行為取消権においても相殺が認められ、かつ取消権者の按分額の支払拒絶の抗弁によって、全額請求ができます(最判昭46年11月9日)ので、優先弁済権は確保されているようです。

そうすると、責任財産の保全というより、事実上の優先弁済権を認めることといえそうです。

債権者代位権とは?

債権者代位権とは、債務者の権利を行使できる権利です。

このとき、債務者の権利は、「被代位権利」といい、また、債権者が持つ権利は、「被保全債権」といい。代位する根拠となる権利です。

債権者代位権と詐害行為取消権の趣旨

債権者代位権と詐害行為取消権の趣旨をまとめると「責任財産の保全」と「強制執行の準備手続」ということになりそうです。

・責任財産の保全といわれるのは、引渡しや給付を受け取らないことや持っている財産を追跡されないようどこかに隠してしまうというがあるので、直接債権者が受け取ることができるためです。

剥がされるものがなければ追剥にも遭わないということですね。

・強制執行の準備手続きというのは、債務者がもっている債権が金銭にかわり、金銭を差押えるというステップを踏むから
債権を金銭にかえるというところが債権者代位権です。

債務者がもっている債権の移転を防ぎ、取り戻し、金銭等を差押えるというステップが詐害行為取消権です。

債権者代位権の法律要件

・債権を保全する必要があること

・債務者が持っている債権を行使しないこと

・債権者(じぶん)の債権が弁済期(履行期)にあること

第423条(債権者代位権の要件)

① 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。
ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

② 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

③ 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

詐害行為取消権とは?

詐害行為取消権とは、債務者がした法律行為の取消しを裁判所に請求する権利です。

債務者は、財産逃れをよくするので、裏でつながっていて、家を売ったことにするというようなことがあります。

詐害行為取消権の法的性質は何か?

裁判所に請求する権利とされていますが、取消しの意味は何でしょうか。

取消といえば、総則でお馴染みですが、当事者に対して法律行為を遡及的に無効にすることでした。

そのため、細かいですが「詐害行為とはどういう権利で、取消しとは何なのか?」が論点です。

『財産逃れのもとになっている法律行為(これが詐害行為)を取消し、財産である目的物を返還させ、これにかわる価格賠償を請求する権利である』
(大連判明44.3.24)

その効果は、責任財産保全のための必要最小限度でなければならず

流出してしまった逸出財産の返還請求権が必要ですので、流出した原因の法律行為、契約を取消さなければなりません。

詐害行為取消権の法律要件

1 詐害行為前に発生した被保全債権
2 財産権を目的とする法律行為
3 債務者の詐害意思
4 無資力

第424条(詐害行為取消請求)

① 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。
ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

② 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。

③ 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。

受益者の善意と債務者の資力の回復については、受益者が立証します。

詐害行為取消権の場合は、利害関係者がどんどん生まれてしまう点が大きなポイントです。

ということで、債権者代位権と詐害行為取消権の違いと共通点でした。

両者は、債務者の動きが反対であることから、場面設定がちがうということが最大の違いでありポイントです。

この違いから、具体的な部分で多少の差異が生まれています。

ただ、おおむね同じ目的のための手段ですから、この違いを抑えていけば良いのではないかと思います。

ということで、お読みいただきありがとうございました。