今回は所得税の課税最低限と生存権のお話です。
憲法でいうと25条がメインテーマになりますが、社会権がらみは手薄になりがちなのでこの機会にみなおすといいかもしれません。
総評サラリーマン税金訴訟の事案とは?
原告らは共働き夫婦で所得税は源泉徴収されていました。いわゆるサラリーマンです。
原告らは、給与所得者の生計費の実額控除を認めなかったことについて所得税法のうち、給与所得の関する規定が不合理であると主張します。
・給与所得者を不利に扱うという点で14条違反
・生活費に課税している点で税制が25条違反
上記のように主張し、違法であれば徴税は法律上の原因を欠く収納となるので、不当利得に基づく返還請求を行いました。
おおざっぱにいえば、はたらき方によって徴収される税金額が違ったり、算出方法が違うのは平等ではないというのが大筋の理屈です。
税金の徴収や社会保障制度への疑問はデリケートですが、心情としてはだれもがうなずけることでしょう。
総評サラリーマン税金訴訟の関連判例
関連判例として、「サラリーマン税金訴訟」(最大判昭60.3.27)があります。
サラリーマン税金訴訟は、サラリーマンの不公平税制に対して、私立大学教授が提起した訴訟です。
サラリーマンと自営業者等では、制度上徴収の難しさがあり、徴収しきれない部分があり不公平だというものでした。
総評というのは、日本労働組合総評議会という団体組織の略です。望ましい生活水準総評理論生計費というのを算出しています。
総評サラリーマン税金訴訟での請求
総評サラリーマン税金訴訟では14条と25条で争点となり二つの請求をたてることが考えられます。
それが14条と25条です。
総評サラリーマン税金訴訟における14条の論点
総評サラリーマン税金訴訟における14条の論点とは、
・源泉徴収制度と旧所得税控除制度が給与所得者を不利に扱うことは14条1項に反しないか?
という点です。
14条は平等原則ですので、給与所得者と個人事業主という違いにおける税金の徴収方法についての平等かどうかという点です。
旧所得税控除制度は、生計費の実額控除を認めていないことを理由とします。
ここでは、深堀りはしません。
総評サラリーマン税金訴訟における25条の論点
総評サラリーマン税金訴訟における25条の論点とは
・税制は、25条に反しないか?
という点です。
こちらは課税そのものに対する不満です。
25条違反を理由とする主張は、最低限度の生活費に課税していることを理由とします。
所得税の収納については不当利得として返還請求をしています。
これは、根拠となる法令制度が違法であれば徴収の根拠が違法のため法律上の原因なく徴収を行っていることになるため、徴収された金額分が不当利得となりますので返還を請求しています。
所得税法の規定が25条の生存権を制約し反しないか?
まず、25条に応じて定立される立法には立法府の裁量があるとされます。実質的には、裁量を超えるかどうかが争点となります。
判例いわく
「租税定立は立法の裁量判断に委ねられる。給与所得に係る課税関係の規定が著しく合理性を欠き、裁量の逸脱・濫用となる場合に違憲となる。」
これは、堀木訴訟(最大判昭57.7.7)の基準を引用し、本判決では、所得税訪中の給与所得に係る課税関係規定は堀木訴訟の基準で審査されるとの立場を明らかにしました。
総評サラリーマン税金訴訟の判断基準
総評サラリーマン税金訴訟では、堀木訴訟に立脚して裁量判断にて判断しています。
課税最低限に対する司法判断は一般的に「朝日訴訟」(最大判昭42.5.24)をベースにしていましたので、異なる基準をしている点が評価としては注目されています。
細かいことをいうと、朝日訴訟では行政裁量を立法裁量に置き換えて判断枠組みとしています。
朝日訴訟は、傍論でしたのでその辺も影響しているかと思われます。
旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18.3.1)も堀木訴訟を基準としています。
ただ、立法裁量の問題としては、立法府の判断の基礎となる資料に正確性を欠く場合も立法府の判断を尊重するべきなのかという点がありますので、学説としても、立法裁量は支持しがたく、手続的統制の可能性を示唆しています。
※課税最低限とは、一般に所得のうちそこまでは課税されないという金額を意味します。
その範囲としては、給与所得者の場合、給与所得控除および社会保険料控除を含むものとされています。
(金子宏『租税法[第23版])
本件では、原告の場合、「総評理論生計費」を下回っていたが、あくまでもこれは目標でしかなく、健康で文化的な最低限度の水準をあらわすわけではないとします。
そのため、裁量権の逸脱・濫用に当たるという事実を主張していないとされました。
また、課税によって、最低限度の生活が侵害されたということはできない。したがって、違法ではない。
ということで、このような社会権については、専門技術性が高くハマるとわけがわからなくなってしまうので深追いはおすすめしませんが一度は判例を読み直してみるといいかもしれません。
お読みいただきありがとうございます。